【夢主視点】


 太宰さんはずっと僕の仕事風景を見ていて、たまに高い所にあるものを取ったりしてくれた。夕飯の時間になると二人でキッチンへ行って、僕が夕飯のチャーハンを作る姿を見つめていた。
 そして夜。そろそろお風呂入ってから寝るなりお酒飲むなりしてねと、いつの間にか補充されてたお酒を見てから告げれば、四人はそれぞれ分かったと返事をくれた。お酒は徳田さんが坂口さんと織田さんに町案内した時に買ったのだろうと思いながら、僕は図書館を出た。
 夜、僕が手塩に掛けて育ててるお陰でアルケミストの力を宿した結果、ふわりと光る植物達を観察しながら裏庭を通り、司書室に入る。そしてさらにその奥、自室に入ると、ふうと息を吐いた。

 首元まできっちり留めていた白いシャツのボタンを一つだけ外し、黒いカーデガンを脱ぐ。ぼすんとベッドに座り、足は床につけたまま上半身を投げ出す。
「疲れた」
 言葉に出して、ああ疲れたなと認識する。やはり四人同時に本の中へ送るのは今までとは全く違った。アルケミストとしての力がだいぶ使われ、疲労を感じる。これで太宰さん達が怪我でもしたら、補修の時に倒れかねないと鈍く回る頭で考えた。
 アルケミストとしての力を僕は生命エネルギーだと思っている。極端に少なくなれば体が危機を感じてスリープモードになる、つまり倒れて眠ってしまう。それをしてはまずいから、慣れるまでと思って僕は徳田さんと二人で図書館を動かしていたのだが、まだ早かったかなと舌打ちしたくなる。
 正直、僕のアルケミストとしての力はかなり少ない。より効率よく使う方法を覚えねばと考えていたら、僕はとろりと眠くなるのに耐えかねて目を閉じてしまった。


………


「寝過ごしたッ!!」
 ばっと起き上がると時計は深夜2時をさしていた。急いで寝間着とタオルを持って風呂へ向かう。この図書館には風呂が二つある。一つは大浴場と呼んでる大きなお風呂で、もう一つは僕の部屋と司書室がある分館にある小さな一人用のお風呂だ。
 文士の皆には大浴場を使ってもらい、僕は小さなお風呂を使うことにしている。そうしてバタバタ走っていると曲がり角で、ドンっと誰かにぶつかって。
「わーっ!」
「うわあ!!」
 僕の悲鳴と相手の叫び声が混じる。倒れこんで、痛く、ない。明らかに人の上に倒れこんだことに気がついてばっと顔を上げれば、そこには倒れた僕を受け止めるように倒れてる太宰さんだった。
 密着していた体を急いで離して、ごめんなさいと彼から離れれば、前見てなかった俺も悪いしと決まり悪そうに言って太宰さんは起き上がった。
「本当にごめん。太宰さんどこか怪我とかしてない?」
「してない」
「本当に?」
「してないって」
 それなら良かったとホッとして、時間が深夜だと思い出した僕はお風呂入るからとその場からバタバタと立ち去った。

 その場に座り込んだままの太宰さんが、はああと長い長いため息を吐いたことを知らずに。
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