【夢主視点】


 太宰さん達をこの図書館に招き入れることができた次の日。食堂で朝食を作っていたら、寝坊したー!と太宰さんが駆け込んできた。
「みんなは?!」
「徳田さんと朝の散歩に出かけたよ。町の案内も兼ねてね」
「しまったー!!」
 どうしよおいてかれたと落ち込む太宰さんに、まあまあと宥めながら丁度仕上がったフレンチトーストとサラダ、紅茶を運んだ。
「なにこれ」
「僕の手作りで悪いけれど、とりあえず腹ごしらえは必要でしょ?」
「すっごい美味しそう!!」
 いただきます!と太宰さんが食べていくのを見て、気に入ってもらえてよかったと思いながら、調理に使った器具を洗った。
 太宰さんが食べ終わったのを確認してから食器を下げ、それも手早く洗い終えると、早速だけどと僕は太宰さんに言った。
「町の案内がてら、喫茶店にコーヒー豆を買いに行こっか」
「え、いいの?」
 本当にいいのかと椅子に座ったまま、不安そうに見上げてきた太宰さんに、いいんだよと僕は笑った。
「町の案内はしなくちゃいけないし、喫茶店の店主と顔見知りになるのもいいことだよ。この辺の人はあの喫茶店ばかり利用するからね」
 情報収集とか、休憩するところとか、大事じゃない? そう伝えれば、太宰さんはそうじゃないと頭を振った。
「俺と司書さん、だけでしょ?」
「うん、そうだね」
「え、いいの?」
「何か悪いことでもあるの?」
 そう言えば、そうだけどさと太宰さんは目線をウロウロしてから、よしと立ち上がった。おっとと半歩下がれば、ガシッと腕を掴まれた。大きな大人の手だなと思った。
「それじゃあ徳田達が帰ってくる前にさっさと行こうぜ!」
「あ、うん」
 楽しみだなあと浮かれているらしい太宰さんに、そんなに町が気になってたのかなと思いながら、まあいっかと僕はとりあえず手を離してほしいと太宰さんに言ったのだった。

 寂れた町、海辺の町に一つだけある喫茶店。入店するとからんころんとドアに付いたベルが鳴った。いらっしゃいとアンティーク調の店内の奥から店主が現れた。
「おや、今日は徳田さんではないんだね」
「はい。こちらは太宰さんで、新しく図書館に配属されることになった方です」
「そうか」
 よろしくと老いた店主が笑った。太宰さんはよろしくなと戸惑い気味に言ってから僕を見る。ああ、説明し忘れてたな。
「太宰さん、文士達転生者のことは基本的に他言無用でお願い。図書館の外ではただの"太宰さん"だからね」
「え、そうなの」
 そういう決まりなんだと告げて、改めて店主を見て、太宰さんが気に入りそうなコーヒー豆を下さいと言った。
 店主は太宰さんに味の好みについて幾つか質問すると、待っていてくれと、奥からコーヒー豆が入っているであろう袋を持ってきてくれた。
「当面はこれで大丈夫だろう。そういえばさっき徳田さんも二人連れてきたね」
「ここは町の中心ですからね、新入りさんに町案内をするならここにも来ないと」
「そうかい」
 ありがたいねと店主は微笑み、それじゃあお仕事頑張ってと僕らを店の外まで見送ってくれた。
 太宰さんを見上げれば、とりあえず豆の袋持つよと袋を奪われた。僕はそんな非力ではないんだけどな。まあ見た目がそう力持ちには見えないらしいから仕方ないか。

 図書館に帰ると徳田さん達が図書館に帰っていた。おかえりと僕らを出迎えてくれた徳田さんに、コーヒー豆のことを言えば、うちにコーヒーはなかったからよかったんじゃないかと言ってもらえた。判断は間違ってなかったと、ちょっと嬉しく思いながら笑えば、徳田さんはぽんぽんと僕の頭を撫でてくれた。いや、これでも15歳なんだけど。
「やっぱり、徳田と司書って仲良しだよね」
 太宰さんに言われ、そうですかねと照れる。徳田さんは長く一緒に戦ってくれたから、仲良しになっていると嬉しい。そう思っていると、徳田さんにデコピンされた。むすっとした顔が見えて、どうしたのかと太宰さんを見ると、何故かむすくれた様子で立っていた。え、何かまずいことでもしただろうか。
「俺とも仲良くしてよ!!」
「え、そりゃ皆さんと仲良くなりたいよ」
「そうじゃなくてー!」
 もう知らないと太宰さんは徳田さんに豆の袋を押し付けて、ずかずかと潜書室に向かってしまった。何があんなに機嫌を損ねてしまったのかと徳田さんを見上げれば、まあ難しいよこれはと頭をまた撫でてくれた。
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