【太宰視点】


「めちゃくちゃ美人な女の子かと思ったら男だった……」
 ハアとため息を吐くと、安吾が酒の肴の魚の塩焼きを食べながら言う。
「俺も女かと思った」
「あ、ワシも」
 手を挙げた織田に、だよなあと机にほおを乗せた。自分は未成年なのでお酒は飲めませんのでツマミを作っておきますねとキッチンで料理を作ってから、仕事に戻った司書のことだ。一目見て、とても美人な女の子かと思ったのに、声は女の子にしては低いし、一人称は僕ときた。男じゃんとテンションが下がるのは仕方ないよね。
「そんなに気落ちすることじゃねえって」
「町に出れば女の子ぐらい居るやろ」
「でもさあ……」
 そのまま目を閉じて思い出すのは、今日は徳田さんに休んでほしいので休暇にしますねと決めた司書の姿。白い髪に黒のメッシュ、長く白いまつ毛に、黒い瞳。どこもかしこも美しい少年だったと、思った。
「もったいない」
「何言うてんの」
 まあまあ酒飲めよと安吾に言われるまま、俺はコップを傾けた。


 そうして真昼間から酒を飲んで、適当に昼寝して、起きた時には夜だった。
 変な時間に起きちゃったなと頭を掻きながら部屋を出る。水でも飲もうと、ふらふらと食堂に向かえば、明るい照明の光。引き寄せられるように食堂に入れば、窓際の席で読書をする司書の姿があった。
 さらり、白と黒の髪が揺れた。
「眠れないんですか?」
「あ、うん」
 変な時間に起きてさと言えば、そういう時もありますよねと司書は立ち上がり、ミルクティーでも飲みますかと微笑んだ。

 こういう時はお酒なんでしょうけれど、昼間に太宰さん達に渡した分しか無かったんですと司書はヤカンでお湯を沸かしながら言った。
「お酒が無くてごめんなさい。でも紅茶は多くあるんです。僕の趣味みたいなもので」
「俺、コーヒーがいい」
 少しだけ困らせようと、わがままを言えば、司書はふわりと顔を上げた。
「そうですか? なら明日にしましょうか」
「……え?」
「美味しいコーヒー豆を売る喫茶店が近くにあるんです。明日はみなさんの潜書前に豆を買いに行って、潜書中は待機して、潜書後に皆でコーヒーを飲むのはどうでしょう?」
 笑顔で提案する司書に、俺は驚く。
「いい、けど。どうしてそこまでするの」
「単純に共に戦う仲間が増えて嬉しいんです」
「ふうん」
 そうなんだ、と俺は司書の手元を見た。桜貝のような、淡いピンク色の爪。肌は白いけれど病的ではない、健康的な色合い。
「あ、そうだ。その喋り方、すっごい違和感あるよ」
 ふと、気がついて言えば司書は目を揺らした。動揺してる。
「え、そうですか」
「徳田は何も言わないの?」
「徳田さんとはもう少し砕けた口調で話しますね」
「そう! それ! それがいい!」
「え?」
「俺もそういう砕けた口調でいいから! 敬語とかいらない!」
 分かったかと念を押すと、司書は負けたように降参のポーズをとって、分かったよと苦笑した。それに、少しだけ満足した。

 そうして司書が淹れてくれたミルクティーは温かくて、心にじんわりと染みる味がした。
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