【夢主視点】


 ザァア、ザアァ、波打つ音が聞こえてくる、海辺にある寂れた小さな図書館。国の指示により侵食者との戦いを命じられたその図書館に、派遣された僕は徳田さんを助手に、たった二人で細々とアルケミストとしての仕事をこなしていた。
 二人で行える作業などたかが知れており、政府からの給付金は少ない。給料も少ない中、徳田さんと僕は懸命に働いた。
 そして初めてのボーナス。それを司書である僕は全てを補修用のインクと有魂書につぎ込んだ。
 そうして初めて有魂書に潜書した徳田さんを僕はじっと待つ。じっとじっと、何時間も待って、出てきたのは徳田さんと赤い髪をした、新しい文士。
「俺は太宰治! この世に彗星の如く現れた天才小説家だ!」
 どうだと赤いコートをはためかせる太宰さんに、僕はぽかんと間抜けな顔をする。しばらくすると気が落ち着いてきて、僕はにこりと笑みを浮かべて手を差し出した。
「初めまして杏といいます。ここの図書館に配属された司書(アルケミスト)です」
「よろしく!」
 とりあえず太宰さんにはそこにいてもらって、四人パーティを組みたいと事前に徳田さんに相談していた通り、徳田さんがまた潜書をした。すると今度はメガネをかけた人と三つ編みが印象的な人。坂口安吾と織田作之助と名乗った二人は太宰さんを見ると久しぶりと会話をする。無頼派繋がりで仲良しなのかと資料をめくりながら、ホッとする。先ほどの太宰さんの自己紹介はどこか寂しげに聞こえたからだ。仲良しな人がいるのはきっと良いことだろう。
 僕は徳田さんを褒めて、労い、一度休んで来てくださいと部屋に返した。そして無頼派三人組を見ると僕が図書館を案内しましょうと笑った。

 ここの図書館は小さい。中庭と、書庫と、貸し出し用の本が置いてある場所と、貸し出しと返却用のカウンター。でも貸し出しは僕がアルケミストとしてこの図書館に来た時から行っていない。たまに、思い出したように本を返しに人が来るぐらいだ。
 僕がアルケミストとして働くにあたって増築された住居スペースに案内し、ついでに三人の部屋も決めてしまう。今はまだ文士が少ないから部屋は一人部屋でいいだろう。人数が増えたら、相部屋もしくは増築するしかない。
「随分と高そうな図書館やな」
「嗚呼、昔の趣きを残したままリフォームしたそうです。今ではそんなに高い装飾ではないですよ」
「そうなん」
 織田さんがほっと安心したのを見て、僕もまた安心する。坂口さんと太宰さんもやいやいとはしゃいでいて、どうやら気に入ってくれたらしかった。
「では、今日は一日休みとします。明日から徳田さんと四人で潜書していただくことになるのですが、よろしいでしょうか?」
「もちろん!!」
 元気に答えたのは太宰さんで、織田さんと坂口さんもそれに続くように任せとけと笑ったので、僕も思わず笑ってから、それでは夕飯になったら呼びますねとその場を後にしたのだった。
- ナノ -