【夢主視点】


 寝坊したと太宰さんが食堂に駆け込んでくる。僕はおはようと笑いながら告げて、今日の朝食を彼の前に並べた。目玉焼きとカリカリのベーコン、コンソメスープに近所のパン屋さんで買ったイギリスパンは厚切りで。仕上げにコーヒーを渡せば、ありがとうと太宰さんは言ってくれた。
「今日は有魂書だっけ?」
「うん。新しい文士が来てくれるといいのだけど」
 運が味方してくれればいいやと笑えば、俺も新しい仲間楽しみだなと太宰さんはベーコンをフォークに刺しながら言った。

 そうして朝ごはんを全員が食べると、有魂書へ潜書する時間となった。
「ではまず、坂口さん、お願いします」
 おうと有魂書の前に立った坂口さんに、僕はいきますと叫んでアルケミストの力を注ぎ込み、坂口さんを有魂書へ潜書させた。そして額の汗を拭ってから、小林さんを呼んで、彼にもう一つの有魂書の前に立ってもらう。
 だけどもうすでにかなり消耗していることがばれたのだろう、付き合いの長い徳田さんがいいのかと声をかけてくれる。だから僕はいいんだよと笑った。
「では、いきます!」
 そうして小林さんもまた、有魂書へ潜書した。有魂書の時計が回る。どうやら坂口さんはレアリティの高い文士に出会ったらしい。また太宰さんだったりしてと笑っていると、くらりと眩暈。太宰さんがふらついた僕を抱きとめてくれた。全然平気じゃないじゃんと言われて、僕は見栄くらい張らせてよと笑った。

 しばらくして小林さんが有魂書から戻ってくる。そしてやって来たのは眼鏡をかけた柔らかな雰囲気の文士。
「中野重治といいます」
 よろしくと僕を見たその人に、僕もまた自己紹介をした。
「僕はこの図書館の特務司書、杏です。中野さん、よろしくお願いします」
 そうして手を差し出せば、中野さんは困ったような顔をしながら僕と握手してくれた。ああ、この人はもしかしたら本の中で小林さんから僕の事を聞いたのかもしれない。気をつけなくちゃと僕は頭の隅で思った。

 次に戻ってきたのは坂口さんだ。そして隣にふわりと浮かんだのは金色の髪をした、少年のような文士。
「中原中也だ! え? 詩人に見えないって? 喧嘩売ってんのか!」
 ぽかんとした僕になぜか怒り出した中原さんを、まあまあと坂口さんが宥めた。しかも中原さんは太宰さんを見つけるとかつかつと近寄って、ようモモノハナ野郎と低い声で言うから、太宰さんはヒイッと叫んで僕の後ろに隠れた。何なんだ、これ。
「えーっと、太宰さんと中原さんは仲良しなんだね」
「どこが?!」
 太宰さんがそう言うと、あ"あ"と中原さんが低い声で威嚇する。太宰さんはまた僕の背中に隠れた。太宰さん背が高いから全然隠れられてないんだけど。
「と、とりあえず僕がこの図書館の特務司書の杏です。中原さん、よろしくお願いします」
「……おう」
 なぜかすっと目を細めた中原さんに、僕は手を差し出したまま首を傾げる。中原さんは何でもねえよと言って僕の手を掴んだ。へたくそな握手だなって思った。
- ナノ -