【太宰視点】


 小林の歓迎会。でもまあただの飲み会だ。小林のそばには徳田がいて、俺たちもまた同じテーブルについていた。
 小林は酒よりも料理を食べていて、徳田はそんな小林にこの図書館の事を教えていた。酒の席で話されても覚えてないのではと思ったが、どちらかというと徳田が酔って話してるらしかった。
「で、最近お司書はんに何付きまとっとるん」
「はぁ?!」
 付きまとってないてないしと言えば、またまたあと、オダサクは言った。
「最近雛鳥みたいについて回っとるやん」
 なあ安吾とオダサクが同意を求めれば、そうだなと安吾も言う。だから俺は、そんなんじゃないしと言った。
「ただ、杏がふらふらしてるから気にしてるだけで!!」
「ふんふん」
「あの子すぐ倒れそうになるしぶつかるし、おっちょこちょいなところあって」
「ふん?」
「俺が助けなきゃって!!」
 オダサクと安吾が目を合わせる。小林はいつの間にか潰れた徳田を部屋に返しに行った。
「そうか、気になって仕方ないってか」
「うん?」
「気になって手助けしたいんやな」
「う、うん?」
「「それは恋だな(やな)」」
 うん、違いない。安吾とオダサクが酔った顔で言う。俺はイヤイヤと全力で手を振った。
「でも男でしょ!! 無理!!」
「えーでも、お司書はんってホンマに男なん?」
 あんだけ美人だしと呟いたオダサクに当たり前じゃんと俺は答える。
「だって触ったけど! 胸なかった!!」
「いや触ったってお前……」
 安吾に白い目で見られて、俺は失言に気がつく。どこかオダサクの目まで冷たい。いや、いやいやいや。
「別にやましいことは何もないから!!」
 本当だよと叫べば、はいはいと二人は適当な返事をしてまあ飲めと酒を差し出してきたのだった。


 そうこうして飲み会に区切りをつけて、俺は部屋に帰る。飲み過ぎたかなと思いながら歩いていると、ふと聴き慣れた声がして立ち止まった。するとガチャリと、そう小林の部屋の扉が開いて、出てきたのは真っ白な肌に白と黒の髪を揺らす杏だった。
「遅くにすみませんでした。それではおやすみなさい」
 そうしてパタパタと俺がいる方とは反対方向に走っていく杏に、俺は呆然とその場に立ち尽くしたのだった。
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