【夢主視点】


「今日も寝坊した!」
「おはよう、太宰さん」
 僕を見て、気まずそうに目をそらした太宰さんに、どうかしたのかなと思いながら、彼の為に朝食を作る。細かくしたベーコンをカリカリに焼いて、溶き卵を流し込む。うまいことオムレツにすると、レタスと共に皿に盛り付けた。あとはご飯とお吸い物を用意して、彼の前に置いた。

 けれど彼はすぐにはご飯に手をつけず、僕を見た。
「昨日、小林となんか話してたでしょ」
「え、うん。話したけど……」
 まさか見られていたのか、まさか聞かれていたのか、その事を考えて、ぞっとする。どうしてか、太宰さんには僕が化け物であることがばれたくないと思ったのだ。
「内容は聞き取れなかったけど、手を握ってた」
 こんな風にと、太宰さんは僕の手を握る。その穏やかな熱に、僕は震える体を押さえ込んで、内容は聞き取れなかったという彼の言葉を信じた。
「特務司書について来てくれるか、聞いただけだよ」
 彼は政府を嫌うだろうと言えば、ふうんと太宰さんは僕の手から手を離した。穏やかな温かさが遠のいたことに、少しだけ残念に思った。
「じゃ、いっただきまーす!」
 気持ちを切り替えるように挨拶をした太宰さんに、どうぞと僕は笑って、ひっそりと台所へ戻った。

 今日は徳田さんと太宰さんと坂口さんと織田さんに潜書してもらう。前と同じで侵食率の低い本だけど油断は禁物だ。何とかアルケミストとしての力の配分について考えていると、ふと食堂に顔を出した小林さんがいて、太宰さんと同じテーブルに着いた。彼は朝食を食べ終えた筈なのにと思って近づくと、実は足りなかったと言われ、僕はそれならと太宰さんと同じようにオムレツやお吸い物を彼の為に用意したのだった。

 そうして彼らが食べ終わるのを待ってから僕は食器洗いをし、潜書までの時間を書類書きに費やそうと司書室に向かったのだった。
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