5話:捻くれ者とは相性がいいらしい


 ウパーのヴァッサーも一応ポケモンセンターで診てもらった方がいいのか。そんな風に考えながら夕方まで採集を続け、その辺の草原で遊んでいるサンドのボーデンとヴァッサーを連れてポケモンセンターまで戻ってきた。
 ボーデンを抱っこして、ヴァッサーがペタペタと私の周りを楽しそうに歩くのを確認しながらカウンターに向かう。するとその途中で何やらポケモンらしき魔物を連れたトレーナーが数人集まって話をしていた。酒場の風景に似てるなと思ってそっと耳を澄ませれば、どうやら彼らはミハルという女の子の話をしているらしい。
 あの子またバトルで相手のポケモンをオーバーキルしたらしいよ、ポケモンを盗ろうとしたんだって、あの子のポケモンって見た目は綺麗だけどいつも疲れた顔してるよね。聞こえてきた噂話にミハルという人はロクな人間ではないなと確信した。ポケモンの知識はあまりないが、この世界では人間とポケモンが寄り添って生きているらしいと、短い間に分かったつもりだ。
「嫌な人もいるんだね」
〈ぼくを捨てたトレーナーとかね〉
〈え、ボーデンって捨てられたの?!〉
「その事はまた今夜話そうね」
 そうしてカウンターでジョーイさんにヴァッサーとボーデンを渡し、私は待合室のソファで座って待つ。

 勉強がてら本でも読もうかなと本棚の方を眺めていると、1人の女の子が目に入った。その女の子は、私の世界だったら王族の証である黒髪黒目をしていて、自然と目が行った。そんな女の子の隣にはドクロの顔をした浮かぶ魔物つまりポケモンらしき生き物がいた。仲良しそうに寄り添って本を選び、椅子に座って読む様子に、良い子そうだなと思った。さっきの噂話を聞いたばかりなので、ポケモンに優しい人はそれだけで良い人だと思ってしまう。
「ポケモンに優しい人か……」
「ポケモンに優しそうねえ」
「そうですね、えっ」
「こんばんは、お兄さん」
 素敵な目元をしているわね。そう言ったマダムに、私はそれはありがとうございますと一応頭を下げた。
 美しいマダムはそんな貴方に任せたい子がいるの、とモンスターボールを差し出した。無言でマダムを見つめれば、貴方ならと笑っていた。
「この子はナックラー。ニックネームは相談してお決めなさい」
「そんな、譲り受けるわけには」
「いいの、貴方はきっと良いトレーナーになれるわ」
 これでも人を見る目はあるの、そう笑ったマダムはどうしても私にポケモンを譲る気らしい。それならとモンスターボールを受け取れば、マダムはありがとうと微笑んだ。
「これが良い出会いでありますように」
「幸せにします」
 私の言葉にマダムはにこりと笑むと、席を立ってポケモンセンターを出て行った。
 さて、とモンスターボールからポケモンを出してみる。ナックラーと言ってたなと考えていると、ボールからどことなく絵本の怪物のようなポケモンが出てきた。
〈……アンタ誰〉
「私はアンドレアス・コリウス。アンディと呼んでもらえると嬉しいよ」
〈ママは?〉
「マダムのことかな」
〈ふーん、ママが言ってたトレーナーがアンタなんだ〉
「事前に聞いていたのかい?」
〈丁度良さそうなトレーナーがいたって暖炉の前で言ってたんだ〉
「そうなんだ」
〈とりあえず、アンタのポケモンになるよ。ママが言ってたからね〉
「よろしくね。そうだ、ニックネームはいるかな?」
〈どっちでもいい〉
「うーん、じゃあヴィントでどうかな」
〈変な名前じゃなくてよかった〉
「気に入って貰えて嬉しいよ」
 じゃあヴィントも診察に行こうかと持ち上げれば、自分で歩けるとぱたぱた暴れたのでまあまあと宥めながらカウンターに向かったのだった。



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