4話:初心者トレーナーですので


 ポケモントレーナーは最大六体のポケモンをモンスターボールに入れて連れて歩けるそうだ。
「フレンドリィショップ?」
〈そうだよ。そこでポケモンに必要なグッズは大抵揃うんだ〉
 朝ごはんの目玉焼きトーストを食べながら、ポケモンフーズを食べるサンドのボーデンの話を聞く。ボーデン曰く、トレーナーとして生活するならぼく一体では厳しいよ、と。
「そうなんだ」
〈ぼくは弱いから……〉
「落ち込まないで。多分大丈夫」
〈アンディはなんか根拠のない自信を持ってるよね〉
「根拠がないわけではないけれど、まあそう見えるかもね」
 トーストを食べ終えると、フーズを食べ終えたボーデンの皿と共に食堂のおばさんに食器を返した。
 とりあえずそのフレンドリィショップなるところで、トレーナーとして必要な道具を買おうと決めてボーデンと共にポケモンセンターを出た。

 ボーデンが教えてくれたフレンドリィショップは青い屋根の建物だった。自動ドアをくぐると、沢山の魔法具否グッズに目が眩む。商品を手にとって見ることも、店員に頼むこともできるよと言われて、とりあえず店員の元に向かった。
「すみません、えっと」
「いらっしゃいませ! トレーナーカードの提示をお願いできますか?」
「あ、はい」
 どうぞとトレーナーカードを見せると、初心者トレーナーさんですねと店員のお兄さんは爽やかな笑顔で言った。
「でしたらこちらの棚にある商品を購入可能となります!」
「……えっと、初心者だとなぜ分かったのですか?」
「ジムバッジがないですからね!」
「ジムバッジ?」
「各地にあるポケモンジムで勝つともらえる印のことです。バッジの数で買える商品が変わってくるんです!」
「そうなんですか」
 ふむと自分が買えるらしい棚を見てみる。字はなんとか読めるが、効果などが分かりにくい。そもそもポケモンについて何も知らなかったなと、事前に調べてこなかったことを後悔していると、店員がいそいそと棚からいくつか商品を取り出した。
「もしよろしければこちらはどうでしょう?」
「キズぐすりとモンスターボールを5個ずつ、ですか?」
「キズぐすりはポケモンの体力回復に、モンスターボールはポケモンをゲットする為に必要な道具ですね!」
 初心者さんなら基本はこれぐらいだと思いますと言われて、それならそれらをいただきますと言われた金額を出した。
 無事購入し、とりあえずフレンドリィショップを出る。じゃあこれから森へ行こうかとボーデンに言えば、また行くのと不思議そうに言われた。
「嫌かな?」
〈全然。でも何しに行くのさ〉
「植物サンプルの採集だよ」
〈サンプルの採集?〉
「私は植物図鑑を作っていてね、その為にサンプルを沢山集めているんだ」
〈ふうん〉
 納得したらしいボーデンを撫でて、私は森へと向かった。


 コトブキシティ近くの森はとても豊かな森に見えた。様々な植物や鳥や虫、そしてポケモンが生きる森は多様性があって実に興味深かった。
 植物を採集して歩いていると、ふと水辺に出た。ボーデンに水浴びするかいと言えば、ぼくはじめんタイプだから水は苦手だよとそっぽを向かれてしまった。うん。じめんタイプって何だろう。
 水辺の植物を採集していると、ぷかぷかと泉に何かが浮かんでいた。水色にピンクの触覚のようなもの。うぱっと顔を上げたそれと目が合った。
〈あれ人間だ!〉
「うん、そうだね。きみはポケモンかい?」
〈ウパーだよ! ってお兄さん僕と喋れるの?〉
「そうみたいだね。きみはその、随分長い間潜水していたみたいだけど、苦しくないのかい?」
〈全然! 僕はみずタイプでもあるからね! エラがあるんだよすごいでしょ!〉
「エラがあるんだ」
〈アンディ、何してるの?〉
 ボーデンがひょいと顔を出すと、ウパーはぱっと顔を明るくして泉から出てくると寄ってきた。
〈きみはサンド? この辺りでは見ないね!〉
〈うん。ぼくはアンディのポケモンだよ〉
〈お兄さんはアンディっていうの? あ、ニックネームがさっきのぼ、ぼ?〉
〈ボーデンね〉
〈かっこいい!〉
 ねえねとウパーが私に寄ってくる。どうしたんだいとしゃがんで言えば、お兄さんトレーナーなのと聞かれた。
「そうだね、トレーナーだよ」
〈じゃあ僕をゲットしてよ!〉
「うーん?」
〈水辺じゃないところに行ってみたいんだ!〉
「私達はまだこの森を散策する予定なのだけど」
〈それでもいいよ!〉
 えっへんと何故か胸を張るウパーに、元気な子だなあと微笑ましく思いながらそれならと鞄を探る。
「えっと、モンスターボールは……」
〈ないの?〉
「あるよ。さっきショップで買ったから」
〈はやくー!〉
「はい、お待たせ」
 赤いモンスターボールを出せば、ウパーはやったと笑ってボタンに触れた。すると赤い光となってモンスターボールに吸い込まれ、三度揺れるとぽんっと音を立てた。ゲットだねとボーデンが頷いた。

 すぐにモンスターボールから出すと、ニックネームが欲しいと言ったので、それならと答えた。
「ヴァッサーはどうだい?」
〈かっこいい!〉
 気に入ったよとウパー改めヴァッサーは元気よく跳ねたのだった。



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