3話:一番を作ってはいけない魔法使い


 森にサンプルを見に行こうかと考えていると、サンドのボーデンの検診が終わってカウンターに戻ってきた。やっぱり検診はやだなと言いながら私の体に身を擦り付けるので、あははと笑ってしまう。まあ、病院は誰だって嫌だろう。
〈ポケモンセンターにいっぱい行くのは弱いから……〉
「弱い?」
〈ぼくはトレーナーに捨てられたんだ〉
 弱いからと涙ぐむボーデンに、私はそういえばとカウンター越しのジョーイさんに聞く。
「トレーナーとはなんですか?」
「ポケモントレーナーのことかしら?」
 不思議そうなジョーイさんに、そういえばトレーナーカードなんてものを作ったなと思い出した。そこでカウンターに乗ったボーデンに聞く。
「トレーナーってポケモンと一緒にいる人のことかな?」
〈うん。あと、一緒にバトルもするよ〉
 トレーナーにポケモンは全幅の信頼を寄せるものだとボーデンは言い、でも弱いから捨てられちゃったと落ち込んだ。
 その言葉に、私は強い弱いが分からないけれどと前置きをして、言った。
「なら、私と共に来てくれるかな」
〈……パートナーだもん。そのつもりだよ〉
「いえ、少し意味合いが違うのだけど……」
 まあそこは置いておくとして。
「私はこの世界がよく分からない。でもきみはよく知っている。私の先生になってもらえないかな?」
〈先生?〉
「うん。私はトレーナーというのもバトルというのもよく分からなくて。だから」
〈ぼく、先生よりパートナーがいい〉
「パートナー兼先生はどう?」
〈だめ。唯一無二のパートナー。一番大事なポケモンだと思ってくれる?〉
「一番か、それは難しいね」
〈そんな……〉
 何故かとても傷ついた顔をするボーデンに、私は泣かないでと背中を撫でた。心苦しいが、ボーデンのためだ。
「私は一番を作ってはならない魔法使いなんだよ。大地を司る者達が怒ってしまうからね」
〈へ?〉
「いや、こっちの話。そのうち詳しく話すよ。だから、一番にはできない。それはボーデンの為なんだよ」
〈ぼくのため?〉
「うん、だから、そうだな。私の先生が嫌なら、パートナー兼友達でどう?」
〈ともだち……〉
「そう、友達」
〈うん、今は、それでいい。ううん、それがいいよ〉
「ありがとう」
 ボーデンの頭を優しく撫でると、彼は嬉しそうに頭を手のひらに押し付けてきた。

 そんな私たちの一部始終を見ていたジョーイさんが、もしかしてと控えめに言った。
「もしかしてアンドレアス君はポケモンと話せるのかしら」
「あ、ええ。そうみたいです」
 全てのポケモンではないみたいですけれどと頬を掻くと、それでも珍しいことよとジョーイさんは微笑んだ。



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