2話:お勉強をしましょう


 サンドのボーデンが元気になるまでと決めて、私はこの世界の拠点をこのポケモンセンターの一室に置いた。というものの、元々旅人であるので荷物は大してない。軽量化の魔法で小さくしておいた魔法具を机の上に並べ、そこから空の瓶を数個選ぶとベッドの上でごろごろしているボーデンに、少し出掛けるよと言った。
〈どこに行くのさ〉
「森に植物観察をしに行こうと思う。ボーデンも来るかい?」
〈ポケモン無しで草むらに行こうとする人初めて見たよ〉
 あまり戦力にはなれないけどぼくを連れて行ってと行ったボーデンに、これでも大地の魔法が使えるんだけどなと思いながらもいいよとボーデンを抱き抱えて荷物を適当に鞄にしまった。部屋から出て鍵を閉め、外へと向かう。
 森の中でボーデンを下ろし、目に付いた植物から片っ端に採集していく。その中で知らない植物と知っている植物があることに気がつき、共通点もあるのだなと思った。
 ボーデンは私の隣から離れず、ころころと草の上を転がっていた。傷に触らないのだろうかと思いながら、目に付いた木の実らしきものを採集する。
〈あ、オレンのみだ〉
「オレンのみ?」
〈きのみはポケモンの好物だよ〉
 頂戴と手を伸ばしたボーデンに青いオレンのみとやらを差し出せば、サクサクとボーデンが食べていく。皮ごとなんだと思っていると、僅かな魔力の乱れを感じた。乱れ、というより回復だろうか。ボーデンから感じたそれに首を傾げれば、体力が回復したよと言われた。なるほど、体力が急に回復する為に魔力が乱れたのか。
「まだあるけど食べるかい?」
〈うん〉
 どうやらお腹が減っていたらしいボーデンは、その後三つのオレンのみを食べた。

 夕方になる前にポケモンセンターに戻ると、ジョーイさんからこの世界の言語の単語帳をもらった。単語から覚えていくといいわと笑ったジョーイさんに、優しい人だと思いながらありがとうございますとお礼を言った。
 ついでに手持ちにあった換金できそうな宝石を見せれば、買取店を紹介されたので急いでボーデンとその店に行き、宝石とこの世界の通貨を交換した。
 お金を手にし、とりあえず安心してポケモンセンターに戻る。食事はトレーナーなら無料と言われて驚きながら夕食を食べて、ボーデンもポケモンフーズとやらを食べた。部屋に戻るとシャワーを浴びてから、持ち帰った植物サンプルを見て、無地のノートに姿と特徴を書き込んでいく。
 記帳を適当なところで止めて、すっかりベッドで寝こけているボーデンを確認してからもらった単語帳と新しいノートを出した。
「……さっぱり分からないな」
 二言語で書かれていることは分かるが、どちらも知らない言語では意味がない。これは誰かに先生を頼まねばと思っていると、のそのそとボーデンが膝に上がってきた。起きたのかとざらざらする背中を撫でれば、ぼく字なら分かるよと言われた。
「分かるのかい?」
〈発音は出来ないけどね〉
「それでも凄いことだよ」
 じゃあ一つずつ説明していくねと、ボーデンが解説していくのをノートに書き写す。すっかりボーデンが先生だと思いながら、彼が眠くなるまで私の勉強は続いた。


 そうしてゆっくりとした時間を過ごすこと二日、ボーデンの怪我がすっかり治り、私もまたこの世界の言語がある程度分かるようになった。これで本を読めるし、看板も読める。
 それで、これからどうするのとボーデンに聞かれ、私はそうだなと考えた。この辺りの植物の採集は済んでいる。記帳がまだだが、次の街に行ってもいいだろう。
「でもとりあえずは今日の検診に行こうか」
〈ぼく、ジョーイさんは嫌いじゃないけど検診は嫌い〉
「そう言わずに」
 体に後遺症が残るとまずいからと、荷物を纏めて、私はボーデンを抱き上げるとジョーイさんのいるカウンターへと向かった。



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