7話:学校は初めてです


 朝日とともに目覚めて、約束の時間になるまでに、ノートに観察記録を残し、朝食を食べた。支度をして、待ち合わせ場所のフレンドリィショップに行けば、カンナさんは既にショップの前にいた。
「おはようございます」
「おはようございます。じゃあえっと、行きましょうか」
「よろしくお願いします」
 カンナさんは隣にドクロのようなポケモンを浮かせながら、私の前を歩く。どことなく人付き合いが苦手そうだと思いながら、そういえばと私はサンドのボーデンを抱え直して言った。
「カンナさんはトレーナーズスクールに通っているのですか?」
「え、いえ、あたしは……」
「とすると、初心者トレーナーではないのですね」
「まあ、基礎知識はあります」
 目を逸らして言われて、そこを隠す必要はあるのかと内心首を傾げてしまう。というかそろそろ横に浮かんでいるポケモンを知りたい。
「あの、そのポケモンは?」
「え、ああ、ヨマワルのアメジストです」
「そうですか、アメジストさんこんにちは」
 そう話しかけると、アメジストはニシシと笑っただけだった。どうやら会話は出来ないらしい。どうして会話できるポケモンとできないポケモンがいるのだろう。もしかして私の体質が関わっているのだろうか。だとすると、会話できるポケモンは大地を司るものになるわけだが、ウパーのヴァッサーは水を司るようだし、とあれこれ考えていると着きましたとカンナさんが立ち止まった。
 ではこれでと逃げるように立ち去ってしまったカンナさんの背中に、案内ありがとうございましたと伝えてから私はボーデンを意を決してトレーナーズスクールらしい建物へと乗り込んだ。

 いかにも都会風な建物に入ると、私より若い子供達でガヤガヤと賑わっていた。受付を探して、初心者トレーナーであることを伝えると、すぐに先生らしき大人がやって来た。
「初めまして、このトレーナーズスクールで教師をしています。初心者コースをご希望ですか?」
「はい。えっとすみません、授業料はどうなっていますか?」
「初心者コースはトレーナーであれば無料ですよ」
「本当に……?」
〈なんでそこで疑うのさ〉
「ボーデン、タダほど怖いものはないんだよ」
「えっと、その代わり初心者コースは本当に基礎の基礎なので独学でも学べる範囲ですが」
「うーん……」
「でもスクールで学べば、同じクラスの子達とバトルもできますよ」
「……ばとる?」
 バトルって何だろう。首を傾げれば、先生は驚いた顔をした。
「バトルをご存知無いとなると、もしかして特性やタイプ、タイプ相性なども?」
「……ボーデン、どうしよう。さっぱり分からないのだけど」
〈そんな気はしてたよ〉
「とりあえず、初心者コースをオススメしますね!」
「すみません、お願いします……」
 どうやらポケモンというのは、色々と魔物とは違うらしい。基礎知識は属性ぐらいかなと思ったのになとため息を吐けば、ボーデンに一緒に頑張ろうねと言われてしまった。いや、絶対ボーデンは基礎知識あるでしょう。


 かくして、トレーナーズスクールの初心者コースに入学したわけだが。クラスメイトは私より若い子達が多くてちょっと心を抉られた。いや、そもそも世界が違うのだ、知識なんてある筈ないじゃないか。そう言い聞かせて、私は授業を真面目に聞いた。
 今日学ぶのはポケモンのタイプらしい。先生がポケモンの絵が描かれたボードを出すので、そのポケモンのタイプを答えるというものが今日のまとめになる。絵は決まった十数種だが、ランダムだそうなので、私は初めて見るポケモンの絵を前に先生が教えてくれたタイプとやらを頭に叩き込んだ。というか絵の種類が多くないか、え、ポケモンってそんなにいるの。魔物も数が多いけれどと混乱していると、お姉さんあのねポケモンは七百種類以上いるよと隣の席の男の子が教えてくれた。うん、私は男だし、七百って多すぎませんか。
 まずポケモンの名前を覚え、タイプを覚える。ボーデンに半分呆れられながらも応援してもらい、なんとか頭に叩き込んだ。

 そして私は今日のまとめに挑む。
「ではアンドレアスさんこちらは?」
「えっと種族名はイワーク、タイプはいわとじめんです」
「正解です!」
 やったよボーデンと言えば、サクッと覚えてよねと言われてしまった。少しは褒めてくれてもいいのに。
「では今日の宿題は自分のパートナーのタイプを覚えてくることです。今日の授業はここまで」
「「ありがとうございました!」」
 簡単だねとまた賑やかになった教室に、私はどうしよう三体もいるのにと、ボーデンを見る。するとボーデンは長いため息を吐いてから、ポケモンセンターで図鑑を見せてもらおうねと言ってくれた。種族名はボーデンが覚えているらしい。流石は私の先生、頼りになる。

 ポケモンセンターに帰ると早速ボーデン達のタイプを調べる。すると驚いたことに、皆じめんタイプを持っているらしかった。
「じめんは大地、皆は大地を司るもの達だったんだ……」
〈大地を司るもの達って何?〉
「私の世界にある属性の話だよ。この世界でも少しは通用するみたいだね」
〈ふうん〉
 とりあえずぼくらのタイプをちゃんと覚えてよねと言われて、私は分かったよと図鑑と睨めっこをしたのだった。



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