夢 祝福の月見草


▼ 10*騎士であること

第三者視点


 その日はよく晴れていた。ガヴェインが警護から帰ってきたと聞き、ミチルはそっと城を抜け出して城門にいるというガヴェインの元へと向かった。
 こういう時はおかえりなさいと言うんでしょうと彼を迎えたミチルに、ガヴェインはしまったなあ嬢ちゃんはちゃんと城にいないといけないぜと頬を掻いた。
「どうして?」
「だって外には魔神がいるからな」
「魔神?」
「そういうのがわらわらいんのさ。嬢ちゃんは城から出ないようにな」
「関係無いわ。魔神だとしても生き物なのでしょう」
「それはそうけどよ、怪我するぜ?」
「怪我なんてしないわ」
 胸を張る少女に、そうかいとガヴェインは笑うと、がしがしとミチルの頭を撫でた。ミチルはそれを受けながら、嘘じゃないのよと言う。ああそうさ、嘘じゃないだろうさとガヴェインは共に帰ってきた兵たちに指示しながら語った。
「嬢ちゃんは嘘をつけないからな」
「変なことを言うのね」
「だって嬢ちゃんは嘘を言う必要がないんだろう?」
「ええもちろん」
 それが何かと、首を傾げたミチルのその丸い黄色の目に、ガヴェインはだからさと笑った。
「嬢ちゃんみたいなのを守るのが俺たちの仕事なのさ」
「……変なことを言うのね」
 繰り返したミチルに、そうさとガヴェインは言った。
「騎士なんてそんなもんさ」
「分からないわ」
「分からなくていいんだ」
 さあさ、城まで送ろうと言ったガヴェインに、ミチルは不満そうにしながらも、大人しく城の中へと足を踏み出したのだった。


………


 満天の星空、そこに浮かぶ細い月。もうすぐ新月か、とガラハッドは鍛錬の手を止めて夜空を見上げる。キラキラと輝く星々に、美しいなと思っていると、ふと城の一室のカーテンが開いた。ミチルだ。そう分かったのは彼女が特徴的な白い髪を持つからだろう。そのままミチルをじっと見つめたガラハッドは彼女がギッと空を見上げていることに気がついた。そして、その視線の先は細い月だ、とも。
(何か不満なのか?)
 変なのと思ってる間に、カーテンが閉まり、ミチルの姿が見えなくなる。ガラハッドは再び空を見上げて、やはり星々が輝く夜空は美しいと思ったのだった。



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