夢 祝福の月見草


▼ 08*歓迎される少女

第三者視点


 その日は朝から快晴だった。城にある広いガーデンテラス、そこでの歓迎パーティ当日。グィネヴィアが張り切って選んだ白いドレスに身を包んだミチルは城の者たちに歓迎された。それをミチルは淡々とした顔で見ていたが、その顔がどこか戸惑いがちな表情だと読み取ったガラハッドは、せっかくの宴なのだから楽しめばいいのにとぼやいた。

 壁際、アップルパイを食べながら形だけの警護をしていたガラハッドの横に、ひょこりと白いドレスの少女、ミチルが並んだ。ガラハッドはヒールを加算せずとも自分より背の高い少女を見上げる。
「主役がこんなところにいていいの」
「別にいいわ」
「ふうん。ランスロットさんはそうは思わないだろうけど」
 ガラハッドは食べかけのアップルパイを口に入れて、咀嚼のち飲み込むと、ミチルを相応しい場所へ案内せねばと壁から離れようとした。が、その背にミチルが呟いたことでガラハッドは立ち止まる。
「白いドレスは、ウエディングドレスとされることもあるそうね」
「ああ、この地域では決してそうとは限らないけどね」
「そう」
 そうなの、とミチルは繰り返し、ガラハッドはおやと首を傾げる。
「ウエディングドレスは着たくなかったってこと?」
「いえ、そうではなくて」
 そうではないのだけれど、と珍しく口ごもるミチルに、ガラハッドは変なのと思いながら少女をエスコートすべく彼女の手を取ったのだった。


………


 歓迎パーティを終えた夕方。白いドレスを着たまま、ミチルはぼんやりと窓の外、沈む太陽を見つめていた。そこへ、やあと声をかけたのはアーサー王だった。
「どうかしたのかい」
「いいえ、何も」
「ふむ。随分と太陽を熱心に見つめていたと思ったのだが。人の目にはあまり良くないのではないかな」
「私達(わたし)は人ではないから平気よ。むしろ、心地良いの」
 心地良いとは、とアーサー王が尋ねると、そうねとミチルは言った。
「月は、太陽無くては輝けない。太陽は、月を必要としない。だから、月は太陽に焦がれるばかり」
「そうか」
「一番上の姉がそうだったわ。あのお方は太陽の一番の剣(つるぎ)。そして、私の機能と似て非なるひと」
「機能、か。そういえばきみはこの地を侵略すると言ったが、どうやって侵略するというんだい?」
 アーサー王の問いかけに、そうねとミチルは沈む太陽を見つめながら語った。
「私の最大の機能は【爆発】。より正確に言うなら【月の衝突】。その言葉のまま、地球に月を衝突させる、ハイリスクな機能ね」
「そうか、それはまた、規模が大きいな」
「ええ、私を送り込むことは月(マスター)にとっても大きな決断となるわ。下手をしたら地球の領土を獲得する前に、月そのものが消えてしまう」
 その言葉に、ああそうかとアーサー王は納得したように口を開いた。
「【二週間】ときみは言った」
 アーサー王の言葉に、ええそうねとミチルは答える。
「その時間は月が地球に衝突する為に必要な時間な訳だね」
「ええ。そして、地球に対して停戦協定を放棄するという宣言よ」
 地球に何も言わずに攻撃してしまえば、協定を無視したことになってしまうものとミチルは肩を竦めた。もう太陽の光はない。宵闇の中、ランプの光が白い少女とアーサー王を照らした。
「そうか、きみは正々堂々と侵略しようというのだね」
「月(マスター)は地球に対して思うところがあるようだから、暗殺等はあまり好まないわね」
「地球と月、か。兄弟なようなものだと学んだことがある」
「ええ、よくご存知ね。少なくとも月(マスター)は地球を侵略しようとしながらも、きょうだいとしての情は捨てきれないようだわ」
「随分と人らしい」
「そうね、月(マスター)は他の星より随分と人に近いと思うわ。いっそ、私達(兵器)を生み出したとは思えないくらいに」
 そうして目を伏せたミチルに、アーサー王はふむと何かを考える仕草をしてから、そうだと顔を上げた。
「もう日も暮れた。寒くなるから早く着替えてくるといい。案内しよう」
「案内は必要ないわ」
「いや、案内させてくれないか。女性を一人にするのは紳士らしくないからね」
「貴方は王様でしょう?」
「だが一人の男でもあるさ」
 グィネヴィアが待っているかもしれないと笑うアーサー王に、ミチルはふっと息を吐くと、案内をお願いするわと窓際から離れたのだった。



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