夢 祝福の月見草


▼ 07*それはいわば神技なるモノ

第三者視点


 朝、目が覚める。ミチルはそっと起き上がり、伸びをする。何色にも染まらぬ白色をしたショートボブをさらりと揺らして、そっとカーテンを開いた。そうして差し込んだ日差しにどこかホッと息を吐いて、それから気合いをいれるかのようにぎゅっと手を握りしめた。


………


 マーリンがことりことりと歩いている。城の外れ、そっとマーリンが立つと、木の陰から何者かが姿を現した。老齢の騎士にも見えるその姿、マーリンは視認するとあなただったのと微笑んだ。
「ウーゼル、ここまで来てるのは珍しいわね」
「お前は心配しすぎだ」
 その言葉に、貴方に言われたくはないわとマーリンはからりと言ってから、顔をしかめる。
「しかしあのこは」
「あれは悪い人格を持たない」
「人格の問題ではないわ。あの子の中身は、おぞましい怪物よ。それはあのこがどうこうできるものではないわ」
 私にはそれが視える。そう言い切ったマーリンに、ウーゼルは頭を横に振る。
「そうだとしてもあれはここを傷つけないだろう」
「ええ、私にもそう視えるわ。だけどそれは【今のところ】というだけ。私が視える範囲には限りがあるの」
「不穏因子だと?」
「そう、その通りよ」
 それならば、とウーゼルは息を吐いた。
「それなら安心するといい。この私が保証しよう」
「……珍しいことを言うのね」
「……昔、あれに似た娘を見たことがある。それだけだ」
 その言葉にマーリンは目を丸くする。どういうこと、そう質問した彼女に、ウーゼルは黙るばかり。しかしマーリンも引かない。国、城の運命がかかっているとマーリンが考えていることをウーゼルは理解すると、再び口を開いた。
「娘は【人間を愛している】。唯、それだけだ」
「それはどういうこと。あれが、人間を?」
「そして娘は私達神々を人間と同一視している。そういうことだ」
「そんな」
 それはあまりに無知だわ、あれにそれが理解できないほど無能ではない。マーリンが声を荒げれば、ウーゼルは随分と娘をかっているなと呟いた。マーリンは勿論よと幾分か冷静さを取り戻して告げた。
「あれは月、しかし月そのものではない。月を司る神々とは一線を画す。何故ならあれは月と同一ではないから、月を司るものではないから。あれは、あのこは……研ぎ澄まされた剣(神技)だわ」
「そうか」
 その言葉を聞いたウーゼルはそのまま彼女に背を向ける。どこへ行くのと問いかけたマーリンに、ウーゼルは振り返ることなく、見回りに向かうとだけ告げて立ち去った。



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