夢 祝福の月見草


▼ 06*優しい人たち

 アーサーの執務室。明るい日差しが差し込むそこで、アーサーはマーリンを傍らにおいて執務を行っていた。
 ある程度書類を書き終えたアーサーはふっと顔を上げて、2日後にパーティを開こうと提案した。マーリンは眉を寄せる。
「何故?」
「ミチルの歓迎会さ」
 いい考えだろうと笑ったアーサーに、マーリンは苦々しい顔を向ける。
「あれは良いものではないわ」
「私にはそうは見えないが」
「姿形ではない、あれの中身はおぞましい化け物よ。あまり他の地域の前に出すべきではないわ」
「なるほど、この城で解決しろということか。ならば内輪だけのパーティにしよう」
「それならいいでしょう」
 それだけ言うとマーリンは押し黙った。アーサーはその様子に気がついていないような様子で、早く話を皆に通さなければと楽しそうに笑って書類にサインを施した。


………


 ミチルはその日もグィネヴィアにお茶会へ誘われた。今日は軽食のサンドイッチやタルトが並んでいる。しかしミチルはそれに手をつけることなく、ゆっくりと紅茶を飲んでいた。
 ケーキはお好きでないのかしら、グィネヴィアが言うと、ミチルはしばらく考えてから頭を横に振った。
「嫌いではないわ」
「そうなのですか?」
「……私の、姉達のうちの数人が、こうして紅茶を飲むことを好みました」
「お姉さんがいるのね」
「はい、沢山、います」
 でも、とミチルはぽろぽろと言葉をこぼすように語る。
「私は、あまり関われないから、こういう時にどうすればいいのか、データベースに無いの」
「ええっと、お茶会に慣れていないということかしら」
「そうなるわ」
 今考えると、とミチルは胸に手を当てながら語った。
「私はあまり、人間らしい生活はしなかった。いえ、これからも、ずっと、そうなんだと思うの」
「どうして?」
「私は、兵器だから」
 私はマスターの剣。マスターの駒。もっとも信頼される、最強の月乙女。そう語ったミチルに、グィネヴィアは悲痛そうな顔で、そうと呟いた。
「貴女は、私が思っていたよりずっと、大変な人生を歩んできたのね」
「いいえ、私に人生はないわ。私は兵器だもの」
「人ではないと?」
「私は、限りある命ではないから」
 人間とは最もかけ離れている。そう言ったミチルは淡々としていて、迷いはないように見えた。だが、グィネヴィアはぎゅっと手を握りしめた。そして潤んだ目から涙が溢れぬように、前を向いた。
「貴女は限りある命の持ち主だと思うわ」
「何を根拠に」
「今、こうして私とお話ししている。今、こうして私とお茶会の席にいる。そうやって私と共に過ごしているのは、貴女だけだわ」
「何を根拠に」
「例え、貴女が何人いようと、今こうして私とお話ししてくださっているのは貴女なの、ミチル、貴女なのよ」
 その事をどうかこの先も忘れないでほしい。涙を目に溜めて語ったグィネヴィアに、ミチルは目を伏せて、分からないわと呟いた。それだけだった。



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