その花畑はとても美しかった。

「見ろ文次郎。」
「見ている。見事なもんだな」
「そうだとも」

 仙蔵は満足気に笑む。今俺たちが居る場所は忍術学園の裏々山にある花畑だった。

「何と言ってもこの私が見つけたのだからな」
「偉そうなこって」
「私が見つけたのは事実だろう」
「へーへー」

 仙蔵が歩き出したのを俺は眺める。様々な花が咲き乱れる花畑に、美しい仙蔵はよく似合う。
 俺がそんなことを考えていると、仙蔵が俺から少し離れたところで俺に手を差し伸べていた。

「行こう文次郎」
「その手は何だ」
「愛しいお前をエスコートしてやろうというのだ」
「いらん」

 俺は仙蔵の手を取らずに歩く。仙蔵はくすりと笑って俺の隣を歩き出した。花畑を進む。どこまでも続いてるのではないかと錯覚するような花畑は一種のまやかしのようだ。しかし、鼻をくすぐる野花の香りと朧げの無い花々がそれを否定する。彼女(彼かもしれない)達はここに確かに存在する花なのだと。

「花畑の終わりに民家がある。小さな茶屋をやっているらしい。」
「そうか」
「茶を飲もう。文次郎の奢りで」
「何でだ。自分の分ぐらい払え」
「何故だ。私はお前をこんなにも美しい花畑に案内したのだぞ?」
「ったく。しゃあねえな」
「大人しく奢ればいいのだ。」
「偉そうなこって」

 俺は何度目かのため息を吐いた。仙蔵はどこか笑みを濃くしたようだった。





花畑
(いらっしゃい)
((団子をふたつ))


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