過干渉のマリオネット


05:本丸案内



加州清光視点


 簡易バリアとやらを張った後は安定と俺でミチトを寝泊まりしてもらう部屋へ案内しつつ、本丸全体を簡単に説明することにした。

「日本式の屋敷って僕、初めてなんだ!」
 二階建てなんだねとはしゃぐミチトはとても幼く見えて、思わず何歳なのさと聞けば、今年で14歳だと言った。
「もうちょっとで大人でもいい年頃でしょ、落ち着きなよ」
「ええーっそうかな、確かに成長速度は人それぞれだけど……」
「成長速度って?」
 安定がきょとんとする。俺もその質問で気がついた。確かにミチトの言い方には何だかとんでもない言い回しがあったような。
「うん? ここでは成長速度が一定なの?」
「え、ごめん何の話?」
「成長速度の話じゃないの?」
「ちょっと待った二人とも」
 成長速度は確かに人それぞれである。だけど、ミチトの言い回しだと俺たちのこの世界よりもっもその差が激しいように思う。そう伝えれば、なるほどそうなんだろうねとミチトは頷いた。
「僕の生きる世界、仮に魔法世界として、そこでは成長速度は人それぞれ、否、魔法使いそれぞれなんだ」
「魔法使いそれぞれって」
「うん。体に宿す魔力によって寿命とか成長速度がだいぶ違うんだ。僕はわりと長生きする方。炎の魔力を宿していたりすると短命だし、樹の魔力を宿していると200年は生きたりするよ」
「「200年?!」」
 こちらとは時間の流れも違うだろうけどねとミチトは笑った。
「ここの人間の寿命は何歳ぐらいなの?」
「80年ぐらいって言われてるけど、俺たち刀剣には寿命は無いかな」
「永遠に生きるってこと?!」
 ミチトは驚いて目を丸くした。
「すっごいなあ。じゃあ好きなことが何でもできるね!」
「何でもはできないよ。僕たちは歴史を守る為に顕現した刀剣男士だからね」
 安定がそう言うと、歴史を守る為にとはとミチトが不思議そうにした。
「そう、歴史修正主義者って呼んでる、歴史を変えようとする敵を倒す為に僕らはここに顕現しているんだ」
「へえ……って、敵?」
「そうだよ」
「何か、争ったりしてるってこと?」
「うん。戦争してるね」
「戦争?!」
 ミチトは驚愕の顔をして、俺と安定を見つめた。
「そんな、戦争なんて」
「でも歴史を守る為だからね」
「そう。だから俺達は戦うわけ」
「そう、だったんだ……」
 ミチトは目を伏せた。戦争か、と呟いている。
「僕は戦争に参加したことない。だけど伝え聞くことがある。戦争なんて、何もいいことないよ」
「でも僕らは歴史修正主義者を放って置くわけにはいかないんだ」
 そうだよね、清光。そう安定がこちらを見る。それを受けて、俺は頷いた。
「歴史を変えたら、そこに生きた人たちはどうなる? 跡形も無くなるかもしれない。現代に影響が出るかもしれない。でもそれ以上に、俺にとっては、歴史を変えることは過去の人への侮辱だと思う」
「侮辱……」
 ミチトがそっと俺を見上げた。小さな体。ミチトは本当に、まだ若いのだろう。大人とそう変わらない? そんな訳はないと、今のミチトを見たら、そう思えた。
「過去の人は懸命に生きてた。沢山の人が、その人生をどんな形であれ、全うしてきた。その事実を変えようとするのは、あってはならないでしょ」
 ミチトは俺の言葉にハッとして、そっかと頭を揺らした。彼の長い黒髪が揺れる。
「そう、そうだよね。歴史は変えちゃいけない。その通りだ」
 僕も、もっと考えなくちゃいけないのかな。ミチトはへらと笑った。
「今まで後先考えずに夢羽に襲われた人を助けてきた。だけど、そうだ。僕なら少しは未来を知ることができる。襲われた事実が変えちゃいけない過去なのか、判断できるはずなんだ」
 いつの間にか真剣な面持ちとなったミチトに、あれと違和感を感じた。
 何故だろう、この違和感は。彼の年齢と成長速度、それだけでは片付けられないような、何か、が。

 けれど、次の瞬間にはミチトはパッと顔を明るくして、暗い話はここまでと手を打った。
「本丸の中、もっと知りたい! 案内してくれる?」
 楽しみだなあって笑うミチトに、俺と安定は顔を見合わせてから、そうだねとミチトの為に本丸案内を再開したのだった。



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