過干渉のマリオネット


04:今後の方針



加州視点


 ちょっと待って。俺はそう言って話を進めようとする主とミチトを止めた。
「そもそもどうして俺たちを助けようとするの?」
 言外に、きみは俺たちと全く関係の無い赤の他人だろうと告げれば、ミチトはそうだねえと苦笑した。
「うん、そりゃそうだね。僕が貴方達を助けたところで何のメリットも無い」
 だけど、とミチトは硝子の杖を手持ち無沙汰に回した。
「見過ごせないから。夢羽ってのはこの世界の領分ではないから、かな。知識のない僕でもそれ位は分かる。夢羽っては僕側の世界の領分だからね。そう、だから黙って見過ごせない。正義の味方とかそういうのじゃないけど、ただ、今までもたまに僕はこういうケースに遭遇したことがある。その初めての時に、夢羽から人々を助けるって決めたんだ。弱くても、僕にしかできないことがある筈だから」
 まあ、出会えなければ助けることも出来ない誓いだけどとミチトは頭を掻く。その姿に偽りは見えず、俺はまだ信用しきれないけれどとりあえずは彼の力を借りてもいいだろうと判断した。
 初期刀の俺が判断したことで他の刀剣男士の皆や、主の肩から力が抜けていくのが目に見えて分かった。ミチトは気がつかなかったみたいだけれど。
「ん? えっと、それじゃあ対応を考えよっか」
「うん」
 俺は主の隣に移動し、話し合いに加わることを示す。ミチトはその事に気分を害する事なく、現場のリーダーだもんねと納得していた。

対策その1
魔法薬と即席バリアを張る。
「魔法薬は毎日飲むこと。怪しくて飲みたくないなら審神者さんだけでも飲んで欲しいんだけど」
「怪しすぎてむしろ一番主に飲んでほしくない」
「んんん、魔法薬に抵抗ある人多いよね。身に染みてます」
 ミチトは即席バリアを二重にすることで対応しようかと何やら紙らしきものにメモした。記録を残しておくのはいいけれど、なんかその紙変だなと思っていると、主が羊皮紙だよと教えてくれた。え、何それこわい。

対策その2
夢羽について知ろう。
「基礎知識として、創造主が夢羽のご主人様で、夢羽は創造主の部下的なものね」
「審神者と刀剣男士の関係に似てるのかな」
「ごめん僕よく分かんない。似てるの?」
「私は上司と部下だと思ってるからね」
「へえー」
 ミチトは不思議そうに相槌を打った。そういえばミチトは刀剣男士について何も知らない様子だった。後で俺たちについても説明しないとと念頭に置いた。
「夢羽は生きてないので殺せない。だから避けるしかないというか、逃げるしかないね」
「難しいね」
「何にも難しくないと思うんだけど、え、そんなに難しいの? 雰囲気めっちゃどんよりしだしたね?!」
「刀だからねえ」
「カタナって何?」
「ミチト君にも刀剣男士について知ってもらわないとね」
「うーん、そうかも。その時は講師をよろしくね」
 主がさらっと俺達の事を挟んだので後で説明がしやすくなったとホッとした。でも何か主に頼りきりで申し訳ない。俺は初期刀だし、刀剣男士だから主の為にも積極的に話し合いに参加しないとと思っていると、主は気にしないでと俺の肩を叩いてくれた。ミチトはまたもや首を傾げていたが、とりあえず話を進めようと口を開いた。
「夢羽は命令を遂行するだけの存在なんだって。だから命令外のことはしない筈だよ」
「私たちに目をつけた夢羽はどんな命令で動いているのかな」
「それが分かったら苦労しないよね!」
 困ったねとミチトは腕を組む。
「ということで、僕ってこれぐらいしか夢羽について知らないんだよね」
「そうなの?」
「うん。いつも見かけたら速攻で対象と一緒に逃げ回ってたし」
 困ったなあ。とミチトは繰り返した。

対策その3
ミチトについて知ろう。
「ちなみに僕は戦闘とか無理だからね」
「そうなの?」
「魔法使いだからって何でもできるってわけじゃないの! 僕はぶっちゃけ時空を渡ることしか出来ないから。四大魔法は苦手だし、そもそも時間魔法も空間魔法も異界を渡る以外は特に勉強してないから!」
「えっと、勉強嫌いなんだね」
「その通り!!」
 でも今更基礎魔法の勉強もしたくないとミチトは胸を張った。それで良いのか、よくないよね。

対策4
刀剣男士について知ろう。
ついでに本丸と審神者と少しだけ時の政府についても知ろう。
「いくら勉強嫌いとはいえ、刀剣男士について知ってもらいたいのだけれど、大丈夫かな?」
「うん、トウケンダンシ? さっきから名前が出てたね」
 何それとミチトは首を傾げる。主は苦笑しながら、刀剣男士とは刀の付喪神であり、刀剣に眠るその魂が審神者に呼び起こされ人の形を持ったものであると説明した。ミチトはしばらく唖然としていたがつまりと口を開いた。
「貴方達みんな刀なの?」
「私は刀剣男士ではないよ」
「主は審神者ね」
「サニワ」
「物に宿る魂を呼び起こせるヒトのこと」
 俺が説明すると、えっととミチトはまた質問する。
「付喪神ってことは妖精(フェアリー)みたいなもの? あの、僕の言う妖精ってのは、かまどの妖精とか、湖の妖精とかを指すんだけど」
「妖精、ではないかな。私達は付喪神を神と位置付けているからね」
「かみ……神様?!」
 ミチトは驚いてバッと俺を見上げる。どうしたのだろうと思っていると、ミチトはそのまま周りを見回してからドサッと地面に膝をついた。え。
「す、すみませんでした!!」
「え、何」
 綺麗に土下座をしたミチトに、何かあったかと主を見れば、主はハハと乾いた笑い声をあげていた。
「僕すっっごく失礼な事ばっかり言ってました!」
 申し訳ありませんでしたとミチトは頭を下げ続ける。いや、そこまでして貰わなくてもいいし、そもそも俺としては刀剣男士としてそこそこ長く生きたせいで神様扱いに逆に違和感を覚えるのだけれど。
 そのまま伝えれば、ミチトはやっと頭を上げた。
「うう、とりあえず何日かここに通ってもいいですか。即席バリアの出来とか、点検とか、したいのですが」
「無理に言葉遣いを変えなくてもいいんじゃないかな。滞在については私が許可を出そう。一週間ぐらい暮らしたらどうかな?」
「え、いいの?」
 構わないよと主が言い、皆はどう思うと辺りを見回すので、変に出入りされるよりは監視ができる方が良いという保守派の意見で賛成となった。俺としても初期刀としてミチトを完全には信用できないので、賛成だった。

 今後の方針が決まり、ミチトはホッとした様子でまずは即席バリアを使うから誰かついて来てほしいと告げた。信頼出来ない人物である自覚があるのだなと思いながら、俺は主を安定に任せて、結界に詳しい石切丸さんと共に即席バリアとやらの展開を見守った。
 その際の、魔力とやらを小石のような即席バリアに注ぐ瞬間、石切丸さんがふっと眉を寄せたのが気になった。だがそれはミチトのいないところで聞くべきかなと、俺はその場では何も言わずに居たのだった。



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