過干渉のマリオネット


01:魔法使い、参上!



加州視点


 その日、俺たちはいつもの戦場で大将にトドメを刺した。よしこれであとは帰るだけ。旅から帰ってきた今剣の言葉に皆が安心した時、ぴりっと首筋に何かが走る。なんだろうこれは、あえて言うなら殺気に似てる?
「加州君後ろ!!」
 叫んだのは堀川。走り出したのは今剣。鶯丸と鶴丸が俺の体を引っ張って投げ、蛍丸が抱きとめる。今剣が何と戦っているのか。隊長として見極めようとして、唖然とする。

 それは人の形をしていた。けれど、まるで人とは思えなかった。
 まるで石でできた雨のような黒い髪とガラス玉のように反射する瞳。白と黒の西洋風の衣装に身を包んだ青年は、まるでおとぎ話の王子様のようでいて、まるで悪魔のようでもある。
 そして何より、人にあるべき、生き物にあるべき生気を感じなかった。

 青年は顔をピクリとも動かさずに無言で今剣を薙ぎ払った。彼の手には何もない。なにもないのに、そう、体術だけで旅から帰ってきた今剣を薙ぎ払った。
「今剣!」
「かしゅう! きをつけなさい、かれのねらいはあなたです!」
 え、何で俺。そう呟く間に蛍丸が俺を下ろして青年へ大太刀を振り上げる。しかし青年は刀を手で受け止め、何事もなかったかのように刀と蛍丸を投げた。
「蛍丸!」
「とにかく加州は逃げろ! 主に報告すべきだ!」
 鶴丸が叫び、鶯丸が青年へと向かう。でも俺は、何故か足がバカになったみたいに動けなかった。だって、俺は見てしまった。目が合ってしまった。青年の目の中、怯えて青ざめる情けない俺の顔を。
「加州!」
 鶯丸が叫んだ。顔を上げれば眼前には青年が、


「はーいそこまで! っていうか貴方達無謀すぎ!」
 青年の背後、そこの空気がぐにゃりと曲がったかと思うと、サナギから蝶が羽化するように少年が飛び出てくる。
 艶やかな黒く長い髪、開いた瞼の奥の丸くて黒くて力強い目。服装は、昔主が教えてくれた真っ黒なローブを纏っている。
「そこまでだよ夢羽! 僕が見つけたからには好きにさせないんだからね!」
 こっち!と少年の手が伸びる。俺は思わずその手を取った。迷わなかった。そんな俺に、少年はニッと笑った。
「良い子! さあ行くよ!」
 そう言うと少年はガラスに似た素材で出来た長い杖を取り出すと、大きく一振り。辺りに眩い光が放たれて、俺は強い酩酊感を味わった。



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