過干渉のマリオネット


12:演練



夢主視点


 昼になった。加州さんと大和守さんの試合は昼で終わり、昼食を食べてから演練というものに連れて行ってもらえることになった。
「演練って?」
 加州さんを見上げれば、そうだねえと困ったように言った。
「他の本丸の刀剣男士と戦うんだよ」
「他の本丸の? 他にもトウケンダンシがいるの?」
「うん。俺たちは本霊からの分霊だからね。他の本丸にはその本丸の、例えば俺がいるわけ」
「加州さんが二人も?!」
「そうそう」
 だから行こうかと審神者さん達が待つという演練場へと門を越えて向かった。

 演練場は広い草原だった。観覧席が設けられているのが唯一の人工物にも見える。だけどよく見れば魔力、こちらでいうところの霊力で精密に編まれた空間に、僕はただただ驚いた。
「加州さん、ここってすごいね!」
「ん、そうかもね」
 はいミチトはこっち、と連れて行かれた観覧席には審神者さんもいた。丁度順番だよ、と審神者さんは笑った。
「こっちの部隊は、薬研、蛍丸、獅子王、鯰尾、って安定いるじゃん」
「本人たっての希望でね」
「んで、相手は三日月、小狐丸、平野、前田、愛染、厚、かあ。わりと高レアね」
「でも自慢しに来たわけではないみたいだ」
 ほら、と審神者さんが指差した先には演練場の隅で三日月と小狐丸に必死になって短刀を守るように指示してる13歳ほどの少女で、半分涙目になっていた。その少女からふわりと香るような魔力に、あれは香魔法を身に宿す魔法使いの特徴じゃないかと驚いた。しかも、自然と溢れているあたり、かなり強い魔力の持ち主だろう。
「あー変に霊力強くて呼んじゃったパターンかー」
「多分三日月さん達が怪我するより、見た目が自分より小さい短刀が怪我する方が耐えられないんだろうね」
 まあ演練だから手入れせずとも直るのだけどと審神者さんが言うので、そうなのかと僕は驚き、同時に納得した。これだけ濃い魔力で編まれた空間だ。怪我を治す程度、どうってことはないだろう。
「ミチト、どうしたの?」
 黙り込んで、と言われてううんなんでもないよと僕は答えた。
「ただ、あの女の子、強い魔力を持ってるね」
「あ、ミチトも分かるんだ」
「霊力と魔力が完全に同じものかは分からないけど、大体同じだからね。あれは香魔法(こうまほう)の魔法使いの特徴に似てる」
「香魔法?」
「匂いを操る魔法使いだよ。そうだな、加州さんに話した英雄は覚えてる?」
「うん」
「英雄は飛び抜けた香魔法の使い手だったんだよ」
 へえ、と加州さんが返したところで演練が始まった。

 結果は薬研さん率いる審神者さんの圧勝。そしてぼろぼろになった相手の三日月さん達を見て、向こうの審神者である女の子はぼろぼろ泣きながら自分の力不足を刀剣男士達に謝っていた。審神者さんは、挨拶してくるよと席を立ち、僕は加州さんに連れられて演練場から本丸に帰った。
 その途中、ふと振り返ると、審神者さんが女の子に何かを告げていて、女の子が涙を流しながらも頭を深く下げたのを、僕はじっと見たのだった。



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