過干渉のマリオネット


11:内番



夢主視点


 朝、目が覚めて伸びをした。身なりを整えて、最後に長い黒髪を紐で結ぶと、朝餉の用意ができたよと呼びに来てくれた加州さんに、今行くよと返事をした。
 朝食の席ではまた審神者さんを待って、皆で挨拶をしてから食事を始めた。僕はまだ慣れない、いただきますという挨拶をしてから食事に手をつける。今日は芋を煮たものと、焼き魚、あと白いご飯にお味噌汁だった。芋は保存しておいたじゃがいも、焼き魚は朝採った鮎だと教えてもらって僕は、へえと恐る恐る食べた。美味しいと素直に感想を述べれば、でしょと加州さんは嬉しそうに言った。
「もしかして加州さんが作ったの?」
「じゃがいもの下準備を手伝っただけ」
 でも、それだけだとしても、食べた人が美味しいって言ってくれたら嬉しいでしょと加州さんは笑みを浮かべた。そういうものなのか、と僕は家の料理人を思い浮かべた。

 食事が終わると、今日から一週間の内番を審神者さんが発表した。内番って何と加州さんに聞けば、家事や畑仕事の当番だと教えてくれた。
「家事や畑仕事をするの?」
 神様なのにと驚けば、加州さんは当たり前でしょとあっけらかんと言った。
「誰かがやらなきゃ生活できない。だから当番制なの」
 そして加州さんは僕のお世話係と審神者さんが発表し、だよねえと加州さんは苦笑した。何か悪いことをした気になって、思わず加州さんを見上げれば、大したことじゃないよと頭を撫でられた。そうなのかな。加州さん本人が言うから、そうなんだろうけど。何となく納得がいかなかった。
 というか僕のお世話係とは一体。

 それらを終えると、加州さんはそれじゃあ散歩でもしようかと僕を屋敷から連れ出した。本丸は広いらしく、向こうに見える山も本丸の敷地内らしい。その山で採れた恵みがあの鮎だったりするわけだよと加州さんは言った。
 日の光がさんさんと降り注ぐ。今は夏だろう。みいんみいんと蝉の鳴く声がした。加州さんは僕に麦わら帽子を被せてくれて、二人で並んで本丸内を歩き回った。畑では清らかな小川で冷やしたキュウリを食べさせてもらい、馬小屋では大きな馬を撫でさせてもらった。
 そして道場では、大和守さんと大倶利伽羅さんが試合をしていた。道場は自由に使えるらしいけど、内番で指名された二振りはその一週間、優先的に道場が使えのだとか。そしてその今週の二人が大和守さんと大倶利伽羅さんだった。
 木で出来た刀を持って二人はぶつかり合う。時に睨み合い、距離を取り、一気に踏み込んだかと思うと素早く相手を突く。打ち込んだかと思うとひらりと避け、カンッと刀を押し返した。
「すっごい……!」
「ミチトは刀を知らないんだっけ?」
「カタナ、僕の知ってるカタナは魔法武器の一種だね。だから加州さんが知ってるカタナとは違うものかも……」
「うーん、形は同じ?」
「あ、うん、そういえば形は同じだ」
 じゃあ大体同じかもよと加州さんは言って、見ててよと大倶利伽羅さんに声をかけた。
「え、何するの?」
「安定と手合わせしようと思って。いいでしょ大倶利伽羅」
「……構わない」
 じゃあ見ててと加州さんは道場の真ん中、大和守さんの前に立った。

 そこからは僕には考えられない世界が広がっていた。先ほどの二人の神様の手合わせとは全く違う、鏡合わせのような剣技が舞う。素早く、軽やかに、美しく。ふと、思い出すのは僕の世界のカタナ使いの魔法使い達だ。彼らはこうして打ちあうよりも、魔法を使う、いわば鍵のようなものとして使っていた。だから、魔法を一切使わない手合わせが、こんなにも美しいなんて思わなかった。
「あいつらは、同じ主の元にいた」
 大倶利伽羅さんがぼそりと呟いた。
「よく似た動きをするのはその所為だろうな」
 そう言ったきり口を閉ざしてしまった大倶利伽羅さんの隣で、僕は加州さんと大和守さんの手合わせという名の、美しい剣技のぶつかり合いに魅入っていたのだった。



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