過干渉のマリオネット


07:その身に宿す魔力=霊力



加州清光視点


 ミチトがやって来て、宴会も済んだ夜中のこと。もう寝ようとする俺と安定の部屋に意外な刀剣男士が訪ねてきた。
「ちょっといいかな?」
「石切丸さん、どうしたの」
 目を丸くする俺と安定に、石切丸さんは加州さんに用事があってねと微笑んだ。
 石切丸さんが俺に用事があるとはどういうことだろう。そう思って尋ねれば、ミチトに尋ねたいことがあるとのことだった。なるほど、今のところミチトと一番交流があるのは俺だろう。

 離れにあるミチトの部屋の前に着くと、彼の名前を呼んだ。はいと返事が返ってきて、まだ寝間着を着ていないミチトが出てくる。
「まだ寝ないの?」
「あーうん。少し調整してて。何か僕に用事があるの?」
 どうぞ入ってと部屋に通され、俺と石切丸さんは適当な位置に座った。ミチトは机の上に何か色々な図形が描かれた紙や小瓶を置いていたが、それを無視して、そういえばと口にする。
「用事が終わってからでいいんだけど、寝間着の着方を確認してもらえないかな? 一応キモノは着れるんだけど、習ったのが昔だから不安で」
「それぐらい、別にいいよ」
 ありがとうとミチトは明るく笑い、それで用事って何かなと石切丸さんを見た。
 石切丸さんはその様子に、ふむと頷いてから口を開く。

「君の霊力は質が良い、上質なものだ。だけど、どこか人の暗い部分を連想させるような雰囲気も纏っている。一体君は何者なんだい」
 その言葉にミチトはどこか遠い目をした。
「何者、か。僕は僕だよ。それ以上でも、それ以下でもない。少なくともここではね」
「どういう意味なの?」
 思わず口を挟めば、ミチトは丁寧に語った。
「僕の、否、僕の家系の魔力は闇の魔力を身に宿す。あ、貴方達の言うところの霊力ってやつを僕らは魔力と呼んでるんだけど」
「話をそらさないで」
「うん、そうだよね。でも、僕は、ここではただの魔法使いでありたいんだ」
「……話せない、のかな」
 石切丸さんが優しく言えば、ミチトはでもねと目をぎゅっと強めて言う。
「でも僕は皆さんを傷つけることだけはしない。それだけは必ず約束できる。約束、してくれる?」
 その言葉に唖然としてしまえば、ミチトはあれ何かまずったのと慌てる。先に口を開いたのは石切丸さんだった。
「構わない、構わないけど、神に対して約束なんてしてはいけないよ」
「え?」
「君は、本当に神について知らないのかな」
「うん、そうなるね。僕の住む世界で言い聞かされてきた神様は、ドラゴンなんだ。六元素をその身に宿す、世界のバランサー。だから、ヒトガタをした神様というのはちょっと、想像もできないよ」
「やはり、慣れということかな」
「かもしれない。異世界にヒトガタの神様がいることは知ってても、実際に見たのは貴方達が初めてだから……」
 そうして目を伏せてしまったミチトに、ならばと石切丸さんは優しく言った。
「そうか。ならば教えよう。人は、神と約束何てしてはいけないよ」
「どうして?」
「縛られることになるからさ」
「縛られる?」
「言霊は知ってるかな。呪術の一つでもあるのだけど」
「言葉を操る、ってやつかな。前に聞いたような気がする」
「そう、言葉によって人間はお互いを縛り合う。それだけならまだ良い。問題は人と人では無いものとの間で行われる言霊だ」
「それが約束ってこと?」
「そう、約束も言霊になる得る。君は良く気をつけたほうがいい。君の霊力はあまりにも上質だ。少なくともこの世界では様々なモノがその霊力目当てに近寄ってくるだろう」
 その言葉にミチトはひどく驚いた様子でそんな事があるのと声を上げた。
「だから良く気をつけなさい。私から言えることは以上だよ」
 夜遅くにすまなかったねと石切丸さんは部屋を出る。俺も寝間着のチェックをするからとりあえず着替えてと言って、一旦部屋を出て、小声で石切丸さんに聞く。
「石切丸さん、あの子が何か、悪いものを引き寄せる可能性ってあるの」
「可能性はある。でも、彼の霊力は闇そのものだった。人が光の反対だと決めつけて生まれる、影の力だ。」
「じゃああの子を追い出さないとまずいんじゃないの」
「いや、でもそれ以上に彼の霊力は良質だった。気高い闇。あの力の前では大抵の悪霊は地にひれ伏すしかないよ」
「え」
「闇そのもの。ただし、その闇とか光とかは元々人間が決めつけた分類でしかない。だから、あの子の闇の霊力は恐らく黄泉の……」
「何なの?」
「いや、これ以上は彼本人から聞かないとね」
 石切丸さんは自室へと戻って行った。残された俺は自分達はミチトについて何も知らないのだと、今更思い知った。



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