02:顕現

亀甲視点


 溢れる花の香り、目が眩むほどの輝き。地に足をつけ、ぼくは目を開いた。
「ぼくは亀甲貞宗」
 目の前に立つ少女の、美しき目が細められる。けれど、どうしてだろう。美しいだけではない、少女の纏う何かが強い違和感をぼくにもたらした。
「よろしくね、ご主人様」
 違和感を隠して笑えば、ご主人様はにこりと笑みを返してくれた。
「ええ、よろしく。歓迎するわ」
 薬研、とご主人様が短刀を呼ぶ。隣に来た短刀に、彼が貴方を連れてきたのよとご主人様は言った。薬研がよろしくなと笑うので、ぼくは拾ってくれてありがとうと言った。
 次にご主人様は加州と打刀を呼ぶ。はいと返事をして手を挙げた加州に、ご主人様はぼくの教育係を命じた。
「それでは加州、後はよろしくね」
「任せて」
 そうしてご主人様は部屋を出て行く。その後ろを美しい太刀、三日月宗近がついて行った。

 残されたぼくはポカンとするしかなくて、唖然とするぼくの方を加州がぽんぽんと叩いた。
「さ、本丸を案内するよ。薬研は手入れ終わったの?」
「ああ運良く軽傷だったからな。大将も札を使ってくれた」
「そうなの。よかったじゃん」
 さあ行くよと加州が歩き始め、俺っちも付いて行くぜと薬研も歩き出した。ぼくはその背を追いかけて、ご主人様はどこか素っ気ない人だなと考えた。

 厨、食堂、馬小屋、図書館。東屋、畑、道場、そして自分の部屋。順番に紹介してくれた二人は、まあ今は覚えられなくともそのうち覚えればいいと笑っていた。
 ぼくの部屋に三人で居ると、お茶を持ってきましたと短刀が二振りやってきた。平野と前田と言うらしい二人はお茶をお茶菓子を机に置くと、用があるのでと部屋から出て行ってしまった。
 お茶は緑茶、お茶菓子は煎餅。ばりばりと煎餅を齧る薬研の隣でお茶を飲む加州に、そういえばと問いかけた。
「三日月さんが顕現しているんだね」
「うん。というか今顕現できる刀は全員揃ってるんじゃないかな」
「そうなんだ」
 驚けば、加州はまあ主は優秀だからねと胸を張る。
「すごいね」
「でしょー」
「あと、もしかして三日月さんは近侍なのかな?」
「嗚呼、うん、そうだよ」
 加州が頷き、薬研もそうだなと頷いた。その返事に意外だなと感じた。
「三日月さんを近侍にしているって何だか珍しいね」
 のんびりとした性格は忙しい近侍に合わないのではと思って呟けば、加州は曖昧な顔をした。
「うん、まあ、そうだね」
 その煮え切らない様子に首を傾げるが、加州だけではなく薬研まで曖昧な顔で苦笑するだけだった。



- ナノ -