4.買い出し
宮沢視点


 朝食を食べて、本を読んでいると、ふと月乙女さんは何をしているのだろうと気になって、ぼくは本を閉じた。

 といってもアテなんてひとつしかない。唯一彼女が過ごしているのを見かけたことのある台所をひょいと覗けば、月乙女さんは冷蔵庫を開いて何やらメモを取っていた。どうしたのだろうと近づいて話しかければ、月乙女さんはメモを取る手を休めずに言った。
「肉嫌いの口が増えたので買い出しに行こうと思いまして」
 よしとメモを取り終えて冷蔵庫の扉を閉めた月乙女さんに、それならぼくも付いて行こうと提案すれば月乙女さんは驚いた顔をした。だから、元々ぼくの所為だしねと笑いかければ、彼女は複雑そうな顔で頷いた。

 二人で並んで歩く。家を出て畦道を進むと現れたコンクリートの地面。街並みが少し続くと商店街が見えた。
 まずは八百屋に行きますと月乙女さんが宣言した通り、八百屋の前で彼女は立ち止まった。威勢の良い店主から野菜を購入しているのを聞きながら、店頭を見て気がつく。
 そこには人参もあれば菜の花もある。ふきのとうもあれば、サツマイモもある。季節感を無視した品揃えだが、どれも採れたてのように新鮮だ。そのことにぞっと背中を冷たい何かが走った。けれど、月乙女さんのどうしましたかとの声でぼくはハッとして、次は酒屋に行くと言った彼女について行った。
 酒屋では料理酒とみりん、牧場直営店であるという店ではチーズとバター。重いからと荷物持ちを半ば強引に引き受けて、ぼくらは歩いた。

 帰り道、月乙女さんが口を開く。
「貴方が持つ必要は無いのに」
 困った顔をする月乙女さんに、ぼくは改めて言った。
「ぼくが増えたから必要になった買い物だからね、手伝うのは当たり前だよ」
 そうして笑えば、月乙女さんはやっぱり困った顔をしていた。でも、本当は困っているのではなく戸惑っているのだろう。そう感じて、不器用な子なのだなとぼくは気がついた。

 夕飯は白菜と春菊の鍋。豆腐入りで、お出汁は昆布ダシ。一人一つ、小さな土鍋に作り上げられたお鍋は心からぽかぽかと温かくなるような気がした。





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