奇跡の跡
宮沢視点


「賢治サン!」
 その声に目覚めると、目に入ったのは中原くんだった。目を開いたぼくに、彼はゆっくりと胸をなでおろしていた。
「七日間も寝てたんだぜ」
 もう目覚めないかと思ったと涙ぐむ中原くんに、新美さんと七日間一緒にいたからか、と気がついてハッとした。
 覚えている。

 共にご飯を食べたこと、商店街で買い物をしたこと、公園で笑っていたこと、競争したこと、海で遊んでいたこと、ぼくを、お父さまと呼んだこと。

 全て、全て覚えていた。あの時、新美さんに似た少女はぼくの記憶を消すと言っていたのに。何故だろう。
 何故だと考えていると、ふと最後に見た新美さんに似た少女を思い出した。
 少女はぼくが指定していないのに、ぼくを"お父さま"と呼んだ。
 もしかしたら、それが切っ掛けでぼくが記憶を失わなかったのかもしれない。その偶然の一致が、何かしら働いて、奇跡を呼び起こしたのかもしれない。そう考えて、ぼくは手を握りしめた。

 覚えている、夢のような七日間を覚えている。それだけでぼくは少しだけ救われる。消えてしまった儚い新美さんが、思い出の中で生きている。それだけでぼくも、きっと新美さんも救われる。
「我が子なんていなかったのになあ」
 子供が出来ちゃったと笑うと、中原くんはぎょっとして、どうしたんだよ賢治サンとぼくの肩を揺らしたのだった。





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