13.きみはいつもとおなじ侭
宮沢視点


 目が覚める。うすらぼんやりとした意識で布団から出て、居間に向かう。いち、に、さん、数えて、ぼくは柱に六つ目の傷をつけた。あと、一日。明確な時間は分からないけれど、あの話しぶりからすると早くて明日、新美さんは消えるという。
 そしてそれは死だと、言っていた。
「どうして」
 どうして彼女が死ななければいけないのだ。彼女はただの女の子じゃないか。まだ年若い少女じゃあないか。未来がある子供じゃあないのか。
「分からないや」
 死ぬことも、その理由も、因果も、湧き上がる感情も、何もかもが分からなかった。ただ、目を閉じた瞼の裏には、日の光の下、屈託無い笑顔で笑う新美さんがいた。

 新美さんが料理を作り始めた。ぼくは何もできなくて、ただぼんやりと外を眺めた。いい天気だ。今日もよく晴れた、日曜日だ。
 朝食は味噌汁と炊き込みご飯。しいたけと油揚げと人参とゴボウが入ったそれを食べる。優しい味がして、ぼくはまたぼんやりとしてしまう。そんなぼくを新美さんは静かに伺っていて、ぼくよりきみの方が大変なのにと理性の隅で思った。なんとか笑みを返すが、新美さんは不安そうに目を伏せてしまう。
 ごはんはいつものように美味しかった。


………


 海に行きませんか。昼になってもぼんやりすることしか出来なかったぼくに、新美さんが言った。
「海があるのかい?」
「はい、少し歩きますが」
 そう言って様子を伺う新美さんに、ぼくは気持ちを切り替えなくてはと深呼吸をし、答えた。
「うん、行こうか」

 二人で家を出て、新美さんに案内されて海へと向かう。道中ぼくらは無言で、新美さんはちらちらとぼくを見上げてはそっと視線を前に戻した。
 そうしてたどり着いた海は太陽の日差しに溢れていた。けれど、不思議と暑くはない。そういえば、ぼくはこの世界に来てから暑いとか寒いとかをあまり感じたことがなかったと、ふと思い出した。新美さんは嬉しそうに砂浜を駆けて行き、太陽の光できらめく海面に足を浸してぱしゃぱしゃと音を立てる。キラキラと水飛沫を上げて白い髪をわずかに濡らして遊ぶ新美さんは、ふっと、それを止めた。
「私にとって太陽って、お姉さまなんです」
「え?」
「お姉さまは太陽のような人なんです! だから私、陽の光が一番好きなんです!」
 そう言うと新美さんは楽しそうに両手を広げて、足を遊ばせ、水飛沫を上げた。一方でぼくはその言葉に、そうかだから外であんなに楽しそうにしていたのかと、気がついた。彼女は決して姉と同じように走っていたから喜んでいただけ、ではないのだと。
 新美さんは楽しそうに遊んでいる。ぼくはそれを見て、暑くないのに燦々と降り注ぐ日差しの中、砂浜に腰を下ろした。帰りは商店街に寄りましょう、新美さんが海からそう叫んだから、ぼくは手を振って頷きを返した。新美さんはそれが見えたのだろう。より一層楽しそうに笑うと、また足を水の中で遊ばせた。





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