12.決められた運命を知る
宮沢視点


 家に帰ると、ぼくは新美さんと一緒に食材を冷蔵庫を棚に仕舞った。そして、昼食を作るという新美さんに居間で待っていてくださいと言われてしまい、ぼくは居間に戻った。そしてまた本を開く。
 今開いたのは月の写真集だった。真っ白な月、赤い月、黄色い月が写真となって載っている。そして、ふと白い月と黄色い月をみて、新美さんの色だなと思った。白い月はまるで新美さんの髪のよう、黄色い月は彼女のまあるい瞳のよう。美しい色だとボクは改めて彼女の容姿を思い出して、思った。
 美しく、また、神聖な月。時に怪しく光りながらも、夜に地上を照らす光。その光が太陽の反射だったとしても、月のない夜ほど暗い夜は無い。月の無い夜は星々がよく光るが、それはつまり地上が暗いということだ。そう思いながらパラパラと頁を捲っていると、ふと、新月というタイトルの写真を見つけた。当然、そこには月の無い星空が広がるばかりだ。月の写真集なのに珍しいなと思っていると、新美さんがお昼を作りましたと言って居間に入ってきたので、ぼくは運ぶのぐらいは手伝うよと写真集を棚に戻して台所へと向かったのだった。


………


 もう時間は夕飯時となった。新美さんが作ってくれた夕飯を二人で食べる。今日のメインは人参とジャガイモとコンニャクの肉じゃが肉抜きだ。
 食べながら、そういえばとぼくは言った。商店街の人通りが少なくなっていたね、と。すると新美さんはそうでしょうねと微笑むので、どうしてと問いかけると、必要なくなるからと新美さんは言った。
「必要なくなる?」
「ええ、私が消えるとここは必要なくなるから……」
 そうして言い淀んだ新美さんに、ぼくは混乱した頭で口を開いた。
「え、待って。消える?」
「はい。私はあと二日したらリセットされます」
 リセット、おおよそ人に使うには似つかわしく無い単語に眉を寄せる。
「何だいそれは」
「決まっていたことです」
「消えることが決まっていたと?」
「はい」
「消えるってどういうことだい」
 淡々と答える新美さんに、こちらもなるべく平静を装って質問していると、新美さんはやっと戸惑う様子を見せた。
「それはそのままの意味で、いや、違う。そう、私は、死んじゃうんです」
 戸惑った末の言葉に、ぼくは何も言えずに唖然とする。そんなぼくに向けて、新美さんは悲しそうに微笑み続けた。





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