10.上機嫌な少女
宮沢視点


 香ばしい、バターの焼ける匂い。目を薄く開けば、カーテンから朝日が差し込んでいた。
 布団から出て、布団を片付ける。鏡で姿を確認してから、台所へと向かった。

 台所では月乙女さんがふんふんと鼻歌を歌いながら調理をしていた。やけに上機嫌だなと思いながら、おはようと声をかけると、一つに結った白い髪を揺らして振り返り、おはようございますと元気良く返事してくれた。
「何かあったのかい?」
「いえ、何も。ただ、ちょっと調理が楽しくなったんです!」
 黄色い目を楽しそうに細めて笑い、すぐ出来ますから待っていてくださいと言われた。だけど流石に待つだけなのはと思い何か手伝えることがあるかなと聞けば、月乙女さんは少し考えてから、ならばお茶を用意してもらえますかと言った。
「本当に後は色々と盛り付けるだけなんです。あ、お湯はもう沸いてますよ!」
 それならばとぼくは急須にお茶っ葉を入れてやかんのお湯を注ぐ。お湯は沸騰した後少しだけ冷ましていたようで、程よい熱気が湯気となって上がった。蓋を置き、月乙女さんが盛り付けた料理を運ぶのを横目に、少し待ってお茶を注ぐ。二人分で丁度のお茶を注ぎ終え、開いたお茶っ葉だけの急須をそのままに、お盆に二つの湯呑みをのせて居間へと運んだ。

 居間では月乙女さんがテキパキと食事の用意を整え終えたところで、ぼくはお互いの食事の横にお茶の入った湯呑みを置いた。
「それじゃあ食べようか」
「はい!」
 いただきますと元気良く挨拶をして、ぼくと月乙女さんは朝の食事を始めた。今日の朝食は炊きたてご飯とエノキの味噌汁、そしてメインは菜の花のバター炒めだった。

 美味しいねと会話しながら食事を進める。やがて食べ終えると、箸を置いた。ふうと一息ついてから片付けを始めようとする月乙女さんに、少しいいかなと止めて、ぼくは昨日も傷を刻んだ柱に近づく。そして場所を確認してから、柱に五つ目の傷をつけた。

 そう、今日はボクがここに来てから五日目の朝だった。





- ナノ -