8.散歩をしよう
宮沢視点


 朝食を食べ、片付けを済ませると月乙女さんに、散歩へ行きませんかと誘われた。窓の外を見れば、そこは良い天気で、散歩には丁度良いように見えた。だからぼくは賛成して、二人で外へと出た。
 月乙女さんは公園に行きましょうと声を僅かに弾ませて言って、歩く。ぼくはどうして機嫌が良いのだろうと思いながら、それはいいねと頷いて、公園へと案内されるままに歩いた。

 公園は住宅地にあるには少し広いように見えた。特に広場が大きく取られているなと考えていると、月乙女さんはマラソンしましょうと明るく弾んだ声で言った。花が咲いたような笑顔で、とても楽しそうな様子にどうしたんだいと問いかけると、月乙女さんは言った。
「姉がマラソン好きだったんです!」

 ぼくは共に走るのを断って、木陰のベンチに座って月乙女さんを見た。
 月乙女さんは雲一つない青空の太陽の下で、くるくると楽しそうに走る。手を広げたり、思いっきり振ったり。白く長い髪を揺らして、黄色い瞳を煌めかせて、雪のような肌を光に晒して、月乙女さんは楽しそうに駆けている。明るい光の中を無邪気に走る彼女は、普段はあまり見えない中学生の子どもらしさが垣間見えて、何だか微笑ましかった。


………


 夕日の中、帰り道。月乙女さんは買い物をしてから帰りましょうと言った。それはいいねとぼくは答え、そうだと思いついた。
「商店街まで競争しようか」
「いいんですか?」
「うん」
「嬉しい!」
 そうして走り出した月乙女さんに、少し遅れてぼくも走り出す。
 濃い赤にも見える橙色の夕日の中、キラキラと笑いながら走る月乙女さんはとても楽しそうで、ぼくもまた楽しい気持ちになったのだった。





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