クロスオーバー♀短編


米花町遠征任務3

刀剣乱舞+名探偵コナン/混合/膝大包♀要素有り/雪山編/事件が起きる/ミステリーではない/無自覚両片思いです


「雪山にスキーに行く?」
「そうなんです!」
 場所は喫茶ポアロ。その午後にコナンを迎えに来た蘭にとても楽しみだと語られて、大包平は長い指を顎に当て、ふむと考えた。雪山にコナンが行くのなら、十中八九、事件が起きるだろう。そこに時間遡行軍が現れるのも想像に難くない。
 ならば、返事は決まっていた。
「俺もスキーには興味がある。夫婦二人で行くより、大勢で行ったほうが楽しいだろう。いつ行くんだ?」
「え、えっと、日付と場所なら……」
 蘭の言葉を聞いて、大包平は膝丸にメールを打つ。返事は決まり切っているので、梓にシフトを確認し、大包平は共に行こうと蘭に告げたのだった。
 なお、その間ずっと、コナンは安室と事件の情報交換をしていたので、大包平と蘭には全く意識を向けていなかった。


・・・


 かくして、スキー当日。車は毛利一行と刀剣一行で分かれていた。そう、大包平と膝丸は他の刀も連れてきたのだ。
「たのしみなのだ! あつきもよびたかったな……」
「ならば小豆に土産話をたくさん持ち帰らねばな」
「うん!」
 備州大包平の親戚設定にして少年探偵団の一員である謙信景光。朧月謙信を名乗る彼は本丸は違えど、大包平と膝丸によく懐いていた。
 運転席の膝丸は、雪山かと思案顔だ。
「雪山で事件が起きるとしたら、何があると思う?」
「雪崩、密室殺人、遭難辺りか?」
「なだれもそうなんも、じけんではなくじこなんじゃ……?」
「事件だろうな」
「俺は殺人事件が気になるぞ。事前に歌仙に調べてもらった宿泊客の情報からして、怨恨による事件が起きそうだ」
「それもそうだな」
「じぜんじょうほう、ぼくにもみせてくれる?」
「構わん」
 大包平が携帯端末を操作して謙信に情報を見せると、読み進めるうちに謙信がうえと声を上げた。
「もとかのともとかれのかんけいと、しんこんさんがきになるのだ……」
「条件は揃っているな」
 大包平が助手席で頷く。膝丸が、ではと口を開いた。
「謙信もそこが気になるか。では、時間遡行軍はどこに目をつけるのだろう」
「もとかののじょせいがあやしいのだ」
 痴情の縺れか。大包平が目を細め、言う。
「過去を変えたいと願うやもしれんな」
「そうか、では注視しておこう」
「いや、膝丸より俺のほうが性別の上で適役だろう」
「膝丸さんだとかんちがいされそうなのだ」
「しかし、そうすると大包平に負担がかかる」
「それぐらい平気だ」
「……分かった。気をつけてくれ」
 勿論だと大包平が携帯端末を片付けた。謙信はちらと二振りを見て、ぎこちないなとぼやいたのだった。

 山小屋、小鳥荘。やあと手を上げた従業員に、膝丸と大包平はぴたりと動きを止めた。
「小鳥荘の主人、小烏丸という」
「なんでだ」
「大包平さんは知り合いなの?」
 コナンの質問に、大包平は頭を抱えた。
「知り合いだが、こんなところに居る筈がない」
「酷いな。まあ、主人は冗談だぞ。親戚がこの小鳥荘の運営をしていてな、人手が足りないと言われて手伝いに来たわけだ」
 では毛利様と備州様を部屋まで案内しようと、小烏丸はからからと笑って歩き出した。
「大包平、あの小烏丸は俺の職場の刀だ」
「やはりか……三日月の差し金か?」
「おそらくな」
 大包平と膝丸が頭痛を覚えている間、謙信はコナンにあれは何だこれは何だとしきりに話しかけていたのだった。

 スキーの用意をして、ゲレンデに向かう。他の宿泊客も交えて、スキーを体験する。大包平と膝丸は新婚夫婦とも言える期間だからか、宿泊客の新婚夫婦の妻の方と大包平はよく会話した。

 宿に戻ると、山小屋探検をするというコナンに謙信が付いて行った。部屋の中で、大包平は膝丸に新婚の二人について話す。
「どうやら、今回の旅行は夫が主導だったらしい」
「そして、その旅行の宿泊所に、元彼女の女性がいる、と」
「元彼女と連絡を取っているのなら、元彼女が犯人にしろ、夫が犯人にしろ、妻が被害者になるのではないかと思う」
「大包平、その女性に付いていてもらえるか?」
「いや、新婚同士としてつるんだほうが恐らく自然だろう」
「ふむ、そうか」
 そこで、おゆうはんだぞと謙信が戻ってきたのだった。


 事件は翌朝、発見された。
 新婚の妻は地下室で刺殺、夫の方は山小屋の外で惨殺されていた。
 すぐに謙信がコナンと共に妻の刺殺について調べ始める。それをスケープゴートに、大包平と膝丸は惨殺された夫の死体を探った。
「おそらく、妻は元彼女に刺殺された。俺達にとって問題なのは夫の方だ。こちらには時間遡行軍の反応があるぞ」
「手早く倒さねば、今度は他の人間が殺されそうだ」
「うむ。名探偵が元彼女という情報を得るまでに片付けねば。しかし、雪の中では思うように戦えぬ。室内戦に持ち込むべきだろう」
「室内戦では太刀は不利だ。だが、そうだな……あの小烏丸はこの山小屋に小細工を仕掛けていたりしないか?」
「俺の知る小烏丸ならば、やりそうだな」
「では、小烏丸に会おう」

 山小屋の一室で、小烏丸はよく思い当たったなと笑った。
「時間遡行軍がこの一帯に出ることは審神者から知らされていた。室内戦で太刀が不利になるデータを一時的に改竄する術もな」
「ならば、遡行軍を室内に誘い込むべきか」
 大包平がふむと考えると、考えるまでも無いと小烏丸が指摘した。
「歴史修正主義者がいる。あれを刺激すればすぐに時間遡行軍が現れよう」
「歴史修正主義者……被害者の元彼女の女性か?」
「左様。では、名探偵が現場検証や証言集めに気を取られている間に片付けて仕舞おうぞ」
 小烏丸はそう言って刀を手にしたのだった。


 大包平と膝丸が元彼女の女性を訪ねると、彼女はさっと顔を青ざめた。二振りの後ろに隠れていた小烏丸が素早く大包平を引っ張り、前方に飛び出す。大包平は倒れなかったが、膝丸は大包平の腰に手を添えた。
「平気か?」
「当たり前だ!」
 小烏丸が時間遡行軍と刃を交えている。大包平と膝丸も、特殊な術を施した刀を抜いた。

 時間遡行軍は六振り編成の二部隊だった。
「造作もないことよ」
 小烏丸が切っ先を亡骸に向ける。じゅわりと溶けて消えた時間遡行軍を周りに、女性はガクガクと震えていた。
 大包平が近寄り、女性の額に触れる。すると女性は極度の緊張により、かくりと気絶してしまった。小烏丸が、余罪がある、とぼやく。
「余罪がある。一先ず、歴史修正主義への傾倒だけ記憶を消しておくぞ」
「頼んだ」
 うむと小烏丸は頷く。膝丸はそれを見てから、大包平の手を引き、部屋を出た。部屋を荒らしてしまったが、それは小烏丸がデータを元に復元するので問題ないだろう。

 借りた部屋に戻ると、大包平は乱れた身なりを整えた。膝丸は彼女が髪を結い直す手を止めて、俺にやらせてくれと櫛を手にした。
「構わんが、突然どうした」
「その、きみはそれなりに悲しんでいるようだからな」
 ろくでなしの人間だったかもしれない。でも、今回はその命を救えたかもしれなかった。膝丸がそう言うと、大包平はやや間を開けてから浅く頷いた。
「ああ、時間遡行軍が関わらない女性は兎も角、遡行軍に殺されたあの男性は救えたかもしれん。だが、もう起きてしまった」
「死は覆らないからな」
「そうだ、そうだとも」
 だから、悲しんではならない。そう大包平が言うと、そんなことはないと膝丸は髪を結い終えて大包平の肩を叩いた。
「人が亡くなったのだ。悲しんだって、悪くない」
「しかし……」
「きみの、人への愛情を否定しないでくれ」
 そうだろうと項に額を当てる。大包平はびくりと震えてから、そうだなと小さな返事をした。


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