クロスオーバー♀短編


米花町遠征任務2

刀剣乱舞+名探偵コナン/混合/膝大包♀要素有り/パーティに潜入編/事件は起きない/無自覚両片思いです


「パーティに潜入?」
 大包平と膝丸がぱちりと瞬きをすると、伝令役の歌仙が頷いた。

 場所は備州邸。大包平は三つのマグカップに珈琲を淹れると、歌仙、膝丸、そして己の席に置いた。
 ちなみに、備州邸は小さな二階建ての一軒家である。任務を共にする他本丸の刀も訪れる為の拠点として用意された家の一つであり、大包平と膝丸の主が数ある拠点からくじ引きで見事引き当てた建物だったりする。
 閑話休題。歌仙は珈琲に口をつけてから、続ける。
「来週のパーティに三条グループが招かれているので、三日月の誘いで備州夫妻が行くことになる。また、別口から浦島虎徹と骨喰藤四郎がボーイとして働くことになるので、合流するようにとのことだよ」
「その骨喰は帝丹中学の大和骨喰か?」
 膝丸の質問に、歌仙は嗚呼と答える。
「三日月のお気に入りの、大和獅子王と同本丸だよ。でも、獅子王はパーティには出ないからね」
「短刀はいないのか?」
 室内戦を想定した大包平の発言に、勿論と歌仙は答える。
「他所の謙信とお小夜が少年探偵団入りを果たしたから、二振りいるね。本丸の内訳は、備州大包平と備州膝丸。朧月謙信と朧月小夜。ここがそれぞれ同本丸。大和骨喰、真冬浦島は別本丸だよ。全四本丸の合同任務になるね」
「遡行軍の予想はどうなっているんだ?」
「数は二十。四振り一部隊の、五部隊の確認が取れている。だけど、数は増えると思っていい」
「室内戦になるとすると、俺と大包平は陽動か?」
「今回は謙信もだよ。お小夜、浦島、骨喰が主戦力になるね」
「謙信は短刀だろうに」
「少年探偵団の受け持ちだよ。きみ達は毛利蘭の担当だ」
「……うん?」
 膝丸が首を傾げる。その隣で、もしかしてと大包平が口を開いた。
「標的は江戸川コナンではないのか?」
「嗚呼、そうか。その事を話していなかったね。今回の標的は毛利蘭と少年探偵団と思われてるよ。確認した部隊は江戸川コナン本人ではなくその周囲を狙うだろうと、偵察部隊から報告が上がってる。もちろん、江戸川コナンの動向には気をつけてほしいけどね」
 歌仙はそこまで言うと、さてとトランクを持ち上げた。それは何だと大包平と膝丸が不思議そうに言うと、歌仙は予想がつかないのかいと不思議がった。
「パーティに出るのだから、ふさわしい衣装が必要だろう?」
 仕立てて持ってきたんだと、歌仙はトランクを開いた。


・・・


 パーティの当日となった。大包平の纏う真紅のドレスは、案外目立たない。大包平自身が派手なのだから、相応のドレスでなければ逆に不自然になるのだと見立てた歌仙が言っていた。膝丸は、ほうと息を吐いた。
「化粧も、髪も整えたのだな。よく似合うぞ」
「化粧は自分で仕上げたが、髪は浦島と同本丸の加州が整えてくれたんだ。全て自分で行うとすると、時間が足りなくてな」
「そうなのか」
 膝丸は一瞬、僅かに眉を寄せたかと思うと、すぐに何かを思い出したかのように胸元の花に触れ、手を離す。
「大包平、少しじっとしていてくれ」
「構わんが……」
 不思議そうな大包平の耳元に手を寄せると、ぱきっと音がする。驚く大包平の髪に、膝丸の胸ポケットの花と似た飾りが煌いていた。
 大包平は鏡を見ずとも何が起きたのか分かったらしく、神力の無駄遣いだなと呆れ顔をした。
「こんなことをせずとも、俺達は夫婦だと分かるだろう」
「それはそうだろうが……自分でもよくわからないが、こうした方が良い気がしたのだ」
「そうか。それならお前の花にも俺の神力を込めよう。貸せ」
「ああ、頼む」
 こうして揃いの花を纏い、二振りはパーティ会場に足を踏み入れた。


・・・


 大包平と膝丸は浦島と骨喰の二振りと合流し、パーティの参加者や会場の見取り図などを共有してから、毛利蘭に接触した。少年探偵団の中に謙信と小夜が居ることも視認し、大包平が蘭と共にいることを望むことで、護衛の理由をつけた。
 刀剣男士や審神者の認識からすると、今回の参加者の中では毛利親子、少年探偵団、鈴木園子が歴史上重要な人物である。どうやら、この場には他の重要人物である安室や世良などはいないらしい。膝丸は大包平にもと二つのシャンパングラスを受け取ってから、会場を見回した。
 比較的人数の多いパーティだろうとは、三日月から聞いていたので心構えはある。だが、この人数の中にもし遡行軍が現れたらと、膝丸は眉を寄せたくなるのを堪えた。きっと大騒ぎになる上に、記憶操作という事後処理が多くなる。政府の刀から、記憶操作の事後処理を減らせと、口煩く言われているので、膝丸はため息を堪えた。

 テーブルに戻ると、大包平と蘭と園子が談笑していた。どうやら調理の話題らしい。蘭はどうやら少しばかり調理にコンプレックスがあるようで、仕事で料理人をしている大包平に意欲的に質問していた。
 蘭姉ちゃんのお母さんが料理下手だからね。膝丸の考えを読んだかのようなコナンの小声の指摘に、そうなのかと素知らぬ顔で膝丸は質問する。コナンは、妃英理の料理についてぽつぽつと語った。

 暫くして、毛利小五郎がどこかで高笑いをしているなと考えながら、膝丸は少年探偵団に囲まれた現実に気が遠くなっていた。少年探偵団と大包平は面識があるらしく、仲良しのお姉さんの旦那という存在に興味津々らしい。膝丸は、少年探偵団とはこのパーティで初対面だったのである。
 謙信と小夜がさり気なくフォローしてくれるので、膝丸は飛んでくる質問に当たり障りの無い返答ができていた。後日、謙信と小夜には礼するべきだろう。
「今日の大包平お姉さん、とーっても綺麗! 膝丸お兄さんは大包平お姉さんをちゃんと褒めてあげたの?」
 歩美の女の子らしい視点からの質問に、膝丸は勿論だと頷いた。
「よく似合うと、言ったぞ」
「それだけ?」
「それだけ、とは」
 もうと歩美は目を吊り上げる。
「よく似合うとか、一番綺麗とか、そういうことは?」
「もっと甘ったるい言葉はかけなかったのかしら?」
 歩美は親切心からのようだが、灰原はからかい混じりである。膝丸はううむと唸った。
「揃いの髪飾りを仕立てたが、それでは夫婦らしくないか?」
「わあ! ほんとうだ! おそろい! 大包平お姉さん、嬉しかっただろうなあ」
「そうね。贈り物は良いことよ。でも、言葉が一番なの。ねえ、江戸川くん?」
「そーだな。ねえねえ、膝丸さん。ちゃんと好きとか愛してるとか言ってる?」
 ここぞとばかりに聞かれて、膝丸はひやりとする。夫婦"役"なのだから、そんな言葉は必要ない。言っても頭の異常を疑われるだけだろう。でも、夫婦役だからこそ、言うべきなのかもしれない。人を欺くには、その人がいない時も演技に徹するべき、なのだろうか。
 困っていると、謙信と小夜が、少年探偵団の興味を新たに出てきた料理へ移すことに成功した。膝丸はホッと息を吐いてから、疑わしそうなコナンからの視線を躱して、大包平の元に戻った。


・・・


「大包平さんの旦那さんはモデルでもされていたんですか?」
「いいや、そういう話は聞かないな」
「そうなんですか? 姿勢が良いと思って……」
「あー、わかる! 場馴れしてる感じ!」
「そうなのか?」
 そうですよと園子が明るく笑う。蘭は、場馴れといえばと言葉に迷いながら言った。
「大包平さんも、こういう場に慣れているみたいで……何だか夫婦でよく似た雰囲気がしますね」
「大包平さんもモデルみたいなスタイルだもの! ほんっとうに、並ぶと絵になるわ」
「モデルのようなスタイルか。まあ、俺は美しく在る為、それなりに努力はしている。だが、蘭さんも園子さんも、ちゃんと手入れしているじゃないか」
 蘭の指摘に内心ひやりとしたのを隠して、爪先まで綺麗だと大包平が笑むと、ありがとうございますと園子と蘭は笑った。蘭が上手く言葉に出来ていない膝丸と大包平の似た雰囲気というのは、刀剣男士だからというものだ。流石は凶悪犯と渡り合える武人である。蘭は別に好き好んで犯罪に首を突っ込むわけではないが。

 それにしてもと、大包平は少年探偵団から開放されてこちらに向かって歩いてくる膝丸を眺める。歌仙が見立てたスーツは膝丸の雰囲気によく似合う。一寸の誤差も無いような仕立ての生真面目さ、その中にほんの少しの遊び心を胸元の花から感じさせる。花の種類は分からないが、歌仙の好む日常の風流を思い出すものだ。おそらく、今日という日にふさわしい花なのだろう。
 そういえば、大包平と膝丸のドレスとスーツに長船は口を出さなかったらしい。今回は厳正なるくじ引きの結果、歌仙率いる細川家が衣装を仕立てると決まったらしい。今度帰ったら長船派を甘やかしてやろうと、大包平は決めた。特に長船派の祖が悔しがってそうだ。
「大包平、シャンパンを貰ってきたぞ」
「ありがとう。挨拶は出来たか?」
「いや、未だだ。ここまで三日月の周りに近付けないとは」
「まあ、主催に挨拶できたのなら取り敢えずは良いだろう。三日月とは何度か目が合っているから、こちらが居る事には気がついていると思う」
「そうだといいのだが」
「いいんだ。あと、そうだな……子供たちは苦手か?」
「苦手ではない。だが、兄者の方が慣れてそうだとは思うのだ」
 そう苦笑する膝丸に、そんな事は無いだろうと大包平は微笑む。髭切は膝丸より社交的かもしれないが、膝丸のフォローあってこそである。また、子供の相手ならば、源氏兄弟はどんぐりの背比べだだろう。

 ふと、蘭がもしかしてと質問した。
「もしかして、膝丸さんにはお兄さんがいらっしゃるんですか?」
「ああ、兄者がいる。大包平にも兄がいるぞ」
「膝丸に兄のことを語らせると長くなるぞ」
「大包平も大して変わらんだろう」
 そんな二振りの様子に、蘭はきょうだいと仲が良いんですねと微笑ましそうな顔になった。蘭は一人っ子なので、羨ましいような気持ちがあるのだろう。一方で、園子は、今度写真を見せてくださいよと茶目っ気たっぷりに笑った。
「イケメンは目の保養になりますから!」
「もう、園子ったら」
 楽しそうな女子高生組を横目に、入口付近でボーイ姿の浦島がこちらに振り返ったのを確認する。ばちんと音がするようなウインクを受けて、大包平と膝丸はそれぞれ視線を向けたり肩をすくめて見せたりと反応した。どうやら遡行軍は無事殲滅できたらしい。
「あ、大包平さん。そういえば新一のお父さんとお母さんが、一度会ってみたいと言ってて……」
「工藤夫妻が?」
「はい。何でも、新一が写真を送ったらしくて、膝丸さんも含めた四人でお茶でも、とメールが来たんです」
「工藤夫妻なら、三条グループの石切丸が会っているな。そちらからも話が行ったのかもしれん。膝丸、どうする?」
「俺は構わんぞ」
「では、メールしておきます。日時の候補が決まったら、ポアロにお話しに行きますね」
「分かった」
 蘭は良かったと自分のことのように喜び、園子は一体何の話だろうと話を膨らませる。

 工藤夫妻との茶会という任務が出来そうだが、とにかくパーティは恙無く終わりそうだ。それでも大包平と膝丸が少し気を張っている様子だったので、遠目から見た他の刀剣男士は、少しはパーティを楽しめばいいのにと目を見合わせたのだった。




・・・

【簡易設定】

備州大包平
備州膝丸
・夫婦設定。大包平は任務の為に女体化した。苗字は審神者が適当に選んだ。
・大包平はポアロにパートで働いている。
・膝丸はサニワコーポレーション(社名は適当)で働いている。
・無自覚両片思い。まだCPではない。

大和骨喰(帝丹中学生)
大和獅子王(帝丹高校生)
・兄弟設定。苗字は本丸のサーバー名。
・獅子王は蘭たちとクラスメイト。特に世良と仲が良い。
・骨喰と浦島はクラスメイト。
・二人とも学校に黙ってバイトしている。
・三日月と気が合う。三振りで食事したり、カラオケに行ったりする。

朧月謙信(帝丹小学生)
朧月小夜(帝丹小学生)
・双子設定。苗字は審神者名。
・少年探偵団とクラスメイト。
・少年探偵団入りをした。

真冬浦島(帝丹中学生)
真冬加州(帝丹高校生)
・兄弟設定。苗字は亀吉関連。
・加州は蘭達とは別のクラス。
・骨喰と浦島はクラスメイト。
・二人して特殊なバイトを渡り歩いている。

三日月宗近
石切丸
・三条グループで働いている。
・どちらも書類上の名前は別にある。
・今回の現世任務とは関係無い理由で現世にいる。
・この三日月は備州大包平と大和獅子王がお気に入りであり、骨喰はマブダチだと思っている。膝丸や他の刀はよく分からないけど優秀な刀だなあと思っている。のんびりでちょっぴり我の強い性格。
・この石切丸は以前に工藤夫妻と協力してとあるイベントを成功させた功績の持ち主。穏やかながらしっかりした性格。


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