クロスオーバー♀短編


米花町遠征任務

刀剣乱舞+名探偵コナン/混合/膝大包♀要素有り/男審神者が出ます


「「米花町への遠征任務?」」
 その通りと、審神者は頷いた。

 複数の本丸に、一斉に発令された米花町への遠征任務。本丸同士の連携が重要であるため、部隊編成は二振りのみの制限と、他の本丸との刀種の偏りは非推奨となっている。
「俺の本丸からは膝丸と大包平に出てもらいたいんだ」
「現時点で、他には誰が送り込まれる予定なのだ?」
「まだ全然分からないけど、俺は太刀に任せるって言っておいたよ」
「む、そうか」
 膝丸が下がると、大包平が口を開いた。
「向こうでの設定はどうなる?」
「膝丸と大包平なら、同社のサラリーマンにしたいところだけど、ポアロへの潜入をしてほしいかも」
「その場合だとなにか困ることがあるのか?」
「ポアロへの潜入は、女体への変化が条件として出されてるんだよね」
 政府は何考えてるんだろうねと審神者は息を吐く。任務のために女装も女体への変化も、今までに何度かあったが、それでもやっぱり不要ではないかと思う。
「ついでに、ポアロに膝丸と大包平のどっちかが潜るなら、夫婦役になるかなあ」
 見た目だけなら妙齢になりそうだしと、審神者が言うと、そうかと大包平が頷いた。
「それなら俺が女体になろう。俺の方が打撃値と必殺値が高いからな」
 エッと審神者が顔を上げる。確かに、女体に変化したところでステータスは通常と変わらない。弱くなったりはしないのだが。
「必殺はまずくないか?」
「何かあったときに有利だろう」
 淡々と膝丸と大包平が話すのを、ちょっとと審神者は止めた。
「いくらなんでも、米花町が日本のヨハネスブルグだと言われようとも、変質者遭遇前提なのはやめてもらえませんかね??」
 そんなところに大事な我が子(刀)を行かせられるかと不満そうな審神者に、それだけではないと大包平は頭を振った。
「あと、女体になると身長が縮むことがあるんだろう? 俺の方が背が高いからな、トントンになるかもしれない」
「合理主義か??」
 女体への変化は審神者の霊力が大きく影響するため、どのような女性になるかは一概には言えないが、身長は縮むことが多い。
 おいおいと審神者が助けを求めて膝丸を見ると、身長かと遠い目をしていた。お前も十分でかいわ。
「え、マジで、大包平、いいの? 俺が駄々こねれば、ポアロ潜入任務は他の本丸に割り当てられるよ?」
「結局誰かがやらねばならんのだろう。構わん」
「お、男前かー! え、膝丸と夫婦役なのもいいの? この弟丸と夫婦ってキツくない?」
「下手に知り合いと夫婦役をやるより傷は浅いと思うが」
「鶯丸の話かな??」
「膝丸も関わりがないわけでは無いがな」
「俺は友だと思っているぞ!」
「俺もだが」
「えっ、えっ??」
 本当にそれでいいのかと審神者がしつこく確認すると、それでいいと大包平は腹を括ってしまった。膝丸のほうも頷いている。こいつらあんまり深く考えてないなと審神者は思ったが、頑固なのでもうテコでも動かないだろう。
「じゃあ、政府の陰陽寮に話を通すからね?」
 構わんと大包平が返事をし、頼んだと膝丸が言った。もうどうにでもなあれ。審神者は申請書の取り寄せ方法を思い出していたのだった。


・・・


 米花町。ここは喫茶ポアロ。しばらく前から、パートとしてとある女性が働いている。シフトは平日の昼間。夕方には家事の為に家へと帰るそうだ。
「ああ、よく来たな、コナン君」
 何が食べたいんだと問いかける美しい女性。結い上げた髪は深紅で、目は鋼色。気の強そうな顔の割に、態度は親しみやすく、また、口調は男勝りとも言えた。
「今日も大包平さんが作るの?」
「そう言われても、俺はキッチンとして雇われたからな」
 さあ、何が食べたいんだと言われて、コナンは大人しくサンドイッチを頼んだ。
 安室が作るサンドイッチとは全く違うが、丁寧に作られたそれは毎日食べても飽きない味だとコナンは思う。手足の長い大包平がテキパキとキッチンで動くのを、コナンはカウンターから眺めていた。手元のサンドイッチを食べ終えなければ本を読むことはできない。買ったばかりの新しい本だから、汚したくないのだ。

 安室が買い出しから戻ってくる。いつもいる梓は、今日は友達と会うのだとか。笑顔の安室から食材を受け取ると、にこりと笑って大包平は礼を言った。ビニール袋を持つ左手薬指にはシルバーのリング。流石に人妻だから安室さんにキャーキャーしないのかなあと、コナンはオレンジジュースを飲んだ。
「そういえば大包平さん、今日はいつもより遅くまでいるんだね?」
「ああ、それなら、今日は迎えが来るんだ」
「へえー。迎えって、誰が来るの?」
 コナンが無邪気に問うと、安室が耳をそばだてたのを感じた。あれ、安室さんも知らないのか。コナンが疑問を口にする前に、大包平は何でもないように言った。
「今日は夫が迎えに来るんだ」
 食事に誘われていてなと、すらすら答える大包平に、安室も作業を再開した。コナンは安室の動揺を見逃さかなかった。
 どうやら安室は、突然パートとして雇われた大包平が、例の組織と何か関係があるのではないかと探っているらしい。コナンは灰原に、何も匂いは無いと確認してあるので、杞憂だろうにと思っている。でも、大包平の夫は気になる。この海外モデルのような美人の夫とは一体。
「いつ来るの?」
「そろそろの筈だ」
「そうなの?」
 ふうんと思っていると、ポアロの前にタクシーが停まった。タクシーから慌てて出てきたのは、薄い青緑色の髪をした、金色の目の男性。モデルのような華やかさを感じるが、スーツ姿である。高級そうなスーツだが、芸能関係者ではなさそうだ。
 彼はポアロに入店すると、口を開く。
「大包平、迎えに来たぞ」
「そんなに急いで、どうしたんだ膝丸」
 エプロンを外しながら言った大包平に、膝丸は眉を下げた。
「食事会の時間が早くなったらしいのだ。三条グループの都合でな」
 ぴくりと安室が反応する。コナンは、三条グループという組織を脳内メモに書き込んだ。
「何があったんだ」
「三日月が旧知の大包平に会いたいとゴネているんだ。こちらは獅子王を連れてくるから大包平を絶対に連れて来いと、念を押されてな……」
「は、獅子王がいるのか?」
「ああ、彼は高校生だから、あまり遅に出歩かせるわけにはいかないと、保護者に叱られたらしい」
「それなら日を改めればいいものを……すぐ出る。安室君、後は頼めるか?」
 大包平が振り返ると、安室は大丈夫ですよと笑顔で返事をした。すまないと大包平がバックヤードに下がる。
 その隙に、コナンは膝丸に声をかけた。
「お兄さんが大包平さんの夫なの?」
「ん? ああ、そうなる。きみは、コナン君か?」
「あれ、どうして名前を知ってるの?」
「妻から幼い常連客がいると聞いていたのだ。気を悪くしたなら、すまない」
「別にいいよ!」
 それなら良かったと膝丸は微笑み、コナンに自己紹介をした。
「俺は膝丸だ。しがないサラリーマンだな」
「本当に?」
「ああ、名刺もあるぞ?」
 そうして名刺入れから渡されたその社名の欄に、コナンは目を見開く。サニワコーポレーションとも呼ばれるこの会社は、鈴木財閥とも親交があったはずだ。
「え、お兄さんすごい! ボクでもこの会社知ってるよ!」
「む? そうなのか? 働いていると案外知名度が分からなくてな」
 そこで大包平が戻ってきたので、膝丸は彼女の荷物を一部だけ引き受けて、表に頼んでおいたらしいタクシーに乗ってその場から立ち去ったのだった。

 二人が出ていくと、コナンの持っている名刺をひょいと安室が覗き込む。
「すごい人ですね」
「そうみたいだね……」
「以前、大包平さんがここで働くのは社会勉強のためと言っていましたが、旦那さんがこの地位なら、確かに生活の為に彼女が働く必要はなさそうです」
「そうだよね……」
 それにしても、とコナンは違和感を覚える。大包平と膝丸が夫婦にしてはサッパリして見えたのだ。夫婦ってもっと、こう、父さんと母さんみたいなものなんじゃないだろうか。いや、毛利夫婦みたいなパターンもあるか。
 うーんと、コナンが首を傾げる横で、安室が食後のデザートに新作ケーキでも食べますかと宣伝してきたのだった。その際、名刺を抜き取られたことはまあ、良しとにしよう。





【簡易設定】

大包平♀
・名前は備州大包平。モデル並みのキツめの美女だが、素直で地味な仕事が得意。同本丸の膝丸と夫婦を演じている。
・喫茶ポアロでパートをしている。

膝丸
・名前は備州膝丸。モデル並みの美形だが、気さくで普通のサラリーマンらしい(自己申告)。同本丸の大包平と夫婦を演じている。
・サニワコーポレーション(社名は適当)で働いている。刀剣男士が数振り働いているが、上司も部下も人間のみ。刀剣男士には先輩後輩以外の序列は無い。

三日月
・名前は三日月宗近。審神者から三条グループを任されている。上二振りとは別本丸。獅子王とも別本丸。実はこの時代で働いているのは今回の遠征任務とは関係なく、審神者の特殊な事情によるものである。

獅子王
・名前は大和獅子王。帝丹高校の2-Bの生徒で、蘭園子真純と同クラス。今回の米花遠征任務を任された刀のひとつ。同本丸で同じ任務を受けた骨喰(大和骨喰)は帝丹中学に通っている。


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