クロスオーバー♀短編


新入生歓迎会準備の謎

ポケモン+忍たま/楽学/ミナキ♀+久々知♀
※久々知♀=兵子、ミナキ♀=ミナミ


 日が穏やかに降り注ぐスリーズカフェのテラスで、胡桃色で長めのショートカットをした美しい女子生徒が資料に目を通していた。そんな女子生徒に、艶がある猫っ毛の長い黒髪を高い位置で結った人形の様に可憐な女子生徒が、白を基調にピンクのラインの入った聖桜宮学園の制服をはためかせて近寄った。
「お姉様」
「ん? ああ、兵子さんじゃないか」
 爽やかな笑顔で胡桃色の髪の女子生徒、ミナミは近づく兵子を迎える。そんなミナミのテーブルには一面、何かの資料で埋まっていた。黒髪をした女子生徒、兵子は手慣れた動作で己が使うためにテーブルの一角から資料を退かす。するとその後から女性の学生店員が兵子の開けたスペースにティーセットを置いた。兵子はまた、慣れた様子で紅茶をティーカップに注いだ。
「お姉様、こんなところでも研究ですか」
「ああ。時間が惜しくてね」
「カフェでぐらいゆっくりなさってください」
「ゆっくり、か。新入生歓迎会でゆっくりすればいいさ」
「お姉様はもてなす側です。ゆっくりなんてとても出来ません」
「それでも良い気分転換になるさ」
 微笑むミナミに、兵子はため息を隠さず吐き出す。そんな兵子にミナミは困ったように笑った。

 ミナミは美しい生徒だ。健康的でありながら白い肌、研究で紙ばかり触るせいで少しばかり荒れた指先にはそれでもなお輝く鮮やかなピンクの爪、意思を感じる澄んだスペクトラムブルーの瞳。健康的で美しく整ったスタイルはお姫様より王子様が似合う、最高学年の六年生に属する生徒だ。
 そんなミナミと姉妹制度(スール)の契りを結ぶのは五年の久々知兵子。艶のある猫っ毛で長い黒髪を高い位置で結った姿が特徴的な生徒だ。日本人離れした雪(彼女がこよなく愛する真白な豆腐と例えても良い)のような肌、底無しの様に真っ黒な両眼は瞬くと音がしそうな長い睫毛で彩られ、唇は薄い桃色をしている。脂肪が最低限必要な分しかないような細い彼女は、まさにお人形のような美少女だ。
 二人はミナミが二年、兵子が一年の時に出会い、学年が近過ぎるという周囲の反対を押し切ってロザリオを交換した、学園の中でも指折りの有名姉妹(スール)である。
 それは見た目華やかさの話だけではなく、勉学の成績の良さと性格もある。兵子は学年首位であり、ミナミは学年首位ではないものの優秀な研究成果をあげていることで有名なのだ。性格の面はというと、兵子はお淑やかだが、一見すると冷たい印象の性格だ。だが実は面倒見の良さを持ち合わせていて、何故か豆腐をこよなく愛する変わり者だ。一方ミナミは気さくで誰にでもすぐに打ち解ける明るい人気者だが、研究熱心が過ぎるところがある変わり者だ。

「それで、兵子さんはどうしたんだい?」
「あら、用がなければお姉様に会いに来てはならないのですか?」
「いいえ、そうじゃない。ただ、今日は用があるのでは思ったんだ」
 ニコリと笑うミナミに、兵子は少々ぎこちなく笑い返した。
「お姉様には隠し事が出来ませんね」
 兵子の言葉にミナミは首を振る。
「たまたまさ。少し気になることを小耳に挟んでね」
「それはどんなことですか」
「君と仲の良い友人が歓迎会の新入生リストを一枚無くしてしまった、と」
 ミナミの言葉に、兵子はほんの一瞬だけ目を見開いてから口を開く。それ程遠くない場所で小鳥が鳴いていた。
「その通りです。大切なものだから本人も周りも丁寧に扱っていた筈なのに、一枚だけ足りなかったんです」
「それで、一時期リストを所持していた私に会いにきたんだね」
「はい。お姉様はご存知ありませんか」
 兵子の珍しい困り顔に、ミナミは同じ様に困った顔をする。その表情に兵子が疑問を持つより先にミナミが口を開いた。
「何枚あったんだい?」
「え、」
「多分、無くなったのは新入生のリストの最終項じゃないかな?」
「そうです。どうしてお姉様がそのことを……まさか」
「いや、私が持っているんじゃない。もう一度聞くが何枚あったんだい?」
「三十枚です」
 ミナミはその答えに満足そうに笑った。

「全部あるじゃないか」
「え…?」

 兵子の不可解そうな声に、ミナミは続ける。
「あれは三十枚だった筈だよ」
「そんな筈は」
「三十枚目、いや、あのリストを作成したのは新任の先生でね。最終項があんなに中途半端で“まるでまだ続くかのように”なってしまったんだ」
「そう、だったのですか……」
 落ち込みと安堵の混じり合った声の兵子に、ミナミは優しく伝える。
「無くしたと言っていた友人もキミも、責任感が強いからまずは徹底的に探してから先生に報告しようと思っていたんじゃないかな。」
「はい」
「先生に聞けばすぐ分かるよ。あれは三十枚だった」
「そうですか……無駄騒ぎをしてしまいましたね」
 兵子の申し訳なさそうな声にミナミは否を唱えるために、口を開く。否定するためだが、その目は優しかった。
「そうかもしれないが、これも経験だろう。先生に聞いてみるのも大事ということさ」
「…そうですね。ありがとうございます、お姉様」
「どういたしまして。」
 ニコリとミナミはまた笑む。つられるように兵子も微笑み、会話を少ししてから立ち上がった。
「本当にありがとうございました、お姉様」
「早く行っておあげ。きっと責任感の強い友人は頭を悩ませているさ」
「はい。それでは失礼します」
 兵子は丁寧にお辞儀すると、ぴんと背を伸ばして歩き、その場を立ち去った。ミナミはそんな兵子を見送ると、手元の資料を目を通す作業を再開するのだった。


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