三年対四年の合同演習。課題は三年生が四年生の持つ密書を奪うこと。
「ほほう。この滝夜叉丸から奪おうと」
「最初に出会った四年から奪おうと思ってたんで」
「嘘だな。私と出会う前に既に三人は会ってる」
ニヤリと笑む平に、次屋は小さく舌打ちした。暴露ないとは思わなかったがこうもあっさり暴露るとも思っていなかったからだ。やはり1年の差は大きいということだろうか。
「さて、どうする?」
「どうもこうも」
アンタから密書を奪ってやりますよ、と言い切る前に次屋は走り出す。平はひらりと飛び上がり、木の枝にぶら下がる。この合同演習に武器の使用は禁止されていた。平は空中戦に持ち込みたいようだ。
「上等ッ!」
次屋も飛び上がって木の枝にぶら下がる。平は既に木の枝の上に立っていて、手をひらりと降って後ろ向きに枝を渡ってゆく。次屋は待てと叫んでそれを追った。
しばらく追いかけっこをし、次屋が諦める気がないと平が悟ると急に地面に着地した。次屋ももちろん着地し、地面を蹴って平に襲いかかる。しかし平は全てをするすると避け、終了の狼煙を待っているようだった。その余裕に次屋は苛立ちを覚えた。
(ぜってえ、ぶん殴る!)
目的が変わってしまっているが、そのことを指摘する者はその場に居ない。
しばらく一方的な攻防を繰り広げていたが、唐突に平が笑みを深めた。それに次屋は嫌な予感がしたが、攻撃の手はすんなり止まるものでもなく。伸ばした腕の手首を平が掴んでいた。
(しまった…!)
「冷静さを欠いて単調な動きをするなど、忍者ではなく忍たまとしてもまだまだだな」
華麗な一本背負いを受けた次屋が目を開いた時には平はもう木の枝を伝って彼方へ立ち去っていた。