みーまーのパロディ
続くようにみせかけてつづかない





おはよう、××

「え…」

それは突然始まった。

「どうしたの××」
「何、言ってるんだ、勘右衛門」
「へ?」

××こそ何言ってるの、と勘右衛門は不思議そうに首を傾ける。××ったら寝ぼけてるの、と続けていた。唖然とする俺に、何度も勘右衛門は××と俺に話しかけた。
そう、俺は、自分の名前が聞き取れなくなっていた。

勘右衛門だけなのかもしれない、なんて希望を抱きながら少し動揺して、三郎達ろ組に会った。やはり俺は俺の名前が聞き取れなくなっていて、俺は確かに動揺した。四人に事情を説明すると、信じられない顔をしてから、××は嘘を吐かないからと信頼してくれ、保健室に行くことになった。

保健室で新野先生に問診してもらい、新野先生は心底困った顔をした。

「これは困ったね」
「はい」
「そんな症状は聞いたことない。××君、学園の書物を漁ってみるから今日は自室に居なさい」
「いえ、授業には出ます」
「しかし」
「不便は不便ですが、授業に欠席するほどではありません」
「そうか…無理はしないように、××君」

やはり名前は聞き取れず、座学に出席するために、心配してくれるろ組の三人と別れ、勘右衛門とい組教室に向かった。

俺のこの現象を先生は聞いたらしく、配慮して授業をしてくれることになった。クラスメイトには知らせなかったので、少々不思議そうにしていたが、それはしょうがないだろう。言いふらす出来事ではないのだから。

「××!××!」
「ん、どうしたんだ勘右衛門」
「食堂行こう。今日は豆腐があるってさ」
「それは早く行かないと」
「売り切れたりするわけじゃないんだから焦らないで。それにしてもよかった、何とか授業できたね」
「ああ」

勘右衛門と食堂に入るとろ組の三人が俺たちの席を確保してくれていた。それに甘えることにして定食を受け取り、席につく。

「なあ、やっぱり××は聞こえないのか?」
「ああ。正しくは聞き取れない」
「どんな風に聞き取れないの?」
「名前の部分だけ雑音で埋まる感じだ。ザーって」
「そっか…」

困った顔をする面々に少し申し訳なくなりながら豆腐を食べていると、三郎が俺に豆腐を差し出してきた。

「好きなものでも食べて気を紛らわせばいい。」
「ありがとう三郎」
「なあ××、」
「どうした八左ヱ門」
「あだ名とかどうだ?」

あだ名とは、と八左ヱ門以外の俺を含めた四人が不思議そうにすると、八左ヱ門は名案とばかりに喋る。名前が聞き取れないのならあだ名で呼べばいい、と。

「そんなので解決できるの?」
「分からねえけど」
「根本的な解決にはならないが、その場しのぎにはなるな」
「どう××?」
「…いいと思う」

俺の了承の言葉に、八左ヱ門はあだ名をどうするかと次の課題を提示する。

「豆腐からとってとーくんとかどうだ」
「採用」
「待って××!それはない!」
「八左ヱ門も変なあだ名を提示するな」
「豆腐が変だと言いたいのか三郎」
「いや違うから箸を握り締めるな」
「得意武器に似てるもんね」
「雷蔵そうじゃない雷蔵」

三郎が雷蔵に横に話をそらさないでほしいと説明していると、勘右衛門がふと口を開く。

「×くんは?」
「ごめん聞き取れない」
「名前から取るのは駄目かー」
「というか何で君付けなんだ?」
「何となくとーくんに続いてみた」
「俺はあだ名といえば君付けだと思った」
「謎の基準だな」

三郎の言葉に、雷蔵への説明が終わったんだなと思っていると、雷蔵が閃いたと口を開いた。

「しーくん!」
「雷蔵、ちなみにどこから“し”が出てきた」
「豆腐じゃないよ三郎」
「あ、秀才の“し”だ」
「正解だよ」

雷蔵が勘右衛門にパチパチと拍手していると三郎がいいんじゃないかと疲れ気味に言う。八左ヱ門は俺の様子を伺っていて、俺は構わないと告げた。

「秀才って言われてることは知っているからな」
「嫌だったり…」
「平気だ。」

俺がキッパリ言うと、じゃあ決まりだねと勘右衛門が言った。

「しーくん、これからあだ名を広めようね」
「それはどうなんだ?」
「名前呼ばれて瞬時に反応出来ないんだからしょうがないだろう」
「そうだね、僕も覚えようっと」
「慣れるまでうっかり名前を呼びそうだ」

各々の反応に、俺は釘を刺そうと口を開く。

「そもそも俺のこの現象が長引くかは分からないぞ」

俺の言葉に、勘右衛門がニコリと笑う。

「いいじゃない。あだ名は現象がなくなっても、あったとして困るものじゃないし」
「まあ、確かに」
「じゃあどんどん広めようぜ!」
「とりあえずは食事を終えないとな。」
「僕の豆腐もしーくんにあげるよ」
「ありがとう雷蔵」

こうして俺はしーくんとなったのだった。





生まれたしーくん
(俺は今日からしーくんだ)


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