満開の花束を君に/イリマツ/診断からお題をお借りしました


 花畑に興味はありませんか。イリマがそう聞くと、マツリカはやや間を置いてから、まあ、モチーフになるよねと気のなさそうな声を出した。しかしイリマはその言葉の奥に気がつき、ならば早朝の花畑はどうでしょうと提案する。
「朝露を含んだ花々はとても綺麗ですよ」
 マツリカはその言葉に、やっぱり間を置いてから、こくりと頷いた。

 イリマの家に泊まり、イリマは約束の時間になるとマツリカが眠っている筈の部屋のドアをノックする。ちょっと待ってと言われたイリマが待っていると、やがてがちゃりとドアが開いた。そこにはいつものようにゆったりとした服装のマツリカがいた。そして相棒のグランブルを連れていたので、イリマのドーブルがグランブルに挨拶していた。
「おはようございます。朝食を食べますか」
「ちょっと遠いんだっけー?」
「はい」
 じゃあ食べると頷いたマツリカに、イリマは微笑んでこちらへどうぞと彼女を案内した。
 朝食のたまごサンドイッチを食べると、二人は相棒を横に、並んで花畑へと歩き出した。
 途中の山道で風景に目を取られるマツリカの手をイリマがそっと握れば、マツリカはぶわっと顔を赤くして、俯きがちになってしまった。その様子にイリマまで顔を赤くし、二体の相棒達はやれやれと頭を振った。

 やがて朝日が昇ろうかという時間。ここですよとイリマがマツリカを導き、マツリカはおおと声を上げた。そこはメレメレの花園。黄色い花が咲き誇る、花畑。なかなかいいねとマツリカが微笑めば、イリマはこれからですよと言った。
 徐々に朝日が昇る。その変化に、マツリカは目を丸くして、驚いた。
 それは劇的な変化だった。朝日が昇ると朝日を浴びた花々が朝露と共にきらきらと煌めき、澄んだ空気にかすかに甘い匂いを乗せて、風が二人を包み込むように駆け抜ける。ざあっと吹き抜けた風に、数枚の黄色い花びらが舞った。
「すごい! すごいねー!」
「へへ、天気が良くて良かったです」
「うん!」
 ナイスモチーフだよとマツリカは画材を取り出すとすぐにスケッチブックに色をのせた。その様子に、彼女らしいとイリマは微笑み、スケッチに夢中なマツリカに聞こえるのか分からない囁き声で告げた。
「この花々をあなたに、なんて」
 気障過ぎますねとイリマがぼやけば、マツリカはそんなことないよと振り返った。まさか聞かれているとは思わなかったらしいイリマは驚いて目を丸くする。
「すっごく嬉しいよ」
 だから、そういうことはちゃんと言ってね。マツリカはそう言ってスケッチに戻る。一方で、言われてしまったイリマは長い溜息を吐いて、敵わないですねと苦笑したのだった。

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