02.雲一つない空
レグリ/グリーン視点/pixiv設定の彼らではありません


 この空の果てとか。
 ジムの近く、俺が借りた家にやって来たレッドは勝手にソファで寛ぎ始めた。とりあえずホットミルクを向かいのテーブルに置いて、俺は簡易椅子を持ってきてテーブルを挟むようにソファの向かいに座った。
 いつか、行きたかった場所がある。寝転がっていたレッドはそう言って、笑った。
「リザードンの背中に乗って、どこか遠いところへと行きたかった。」
 さっきと話が違うじゃねえか。そう言えば、レッドはハハと頬を掻いた。
「同じなんだよ。俺が行きたかったのはさ。」
 そう言って俺を見たレッドは目の奥に深い何かを持っていて、俺はそれが読み取れないことが歯痒かった。
 だってそんなのあんまりだろう。お前が行きたかった場所なんて、きっと俺には想像もつかない場所なんだって、突きつけられたみたいだろう。
 つけられた差はいつの間にか天と地の差もある。俺はジムリーダーとして働いて、レッドは山の頂上でただ強いトレーナーを待っている。挑戦者を待つことは同じだろうか、否、レッドにとって迎えたいトレーナーは挑戦者なんかじゃない。頂上を目指しているトレーナーであって、自分を認めようとするトレーナーじゃない。俺は与える職だ。レッドはただ一介のトレーナーだ。俺はそんな人に、なりたかったのに。
「グリーン。」
 俺の名を呼ぶ声に、何だと返事をした。いつの間にか晴天の窓の外を眺めていた顔の向きを変えずにいれば、こっちを向いてよと言われて、レッドの方を向いた。考え込んでいる間に起き上がっていたレッドは、また、深い感情を宿した目をして俺を見ていた。
「あのさ、今度……。」
 そこで言い淀むレッドに不審感を持ちながら、言葉を待っていたが、レッドは口を閉じて曖昧に笑ってしまった。言いかけたけど、言う気がなくなった。そういうことだろう。ならば、聞き出すことはしてはならないのだ。
 コーヒーいるか。そう問いかけながら立ち上がり、キッチンに向かおうとするとを手首を掴まれた。遅れて、待ってと言われる。その声がどこか必死そうだったから驚いて振り返った。
 レッドは見たこともないような顔をしていた。
「頼みがあるんだ。」
 何だよ、と聞くしかなかった。
「今度いつ休みが取れるの。」
 質問の意味がよくわからなくて何も言えないでいると、レッドは緩く笑んだ。
「ねえ、グリーン。春の日ってとても気分がいいだろ? 」
 そんな事はよく知っている。そう答えようとしたけれど、レッドの笑みに何も言えなかった。だってそんな、切なそうな笑顔なんて、見た事がなかったんだ。
「俺と、空の果てに行こう。」
 もし良ければ、今すぐにでも、なんて。

 嗚呼、空には雲ひとつ無かったんだ。

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