チェレベル/メルヘンの用途/おとぎ話と未来への不安と告白の話


 ほんとは信じていたの。
 チェレンはいつもしかめっ面をしていて、いつも難しいことを言う。だから私はそんなチェレンにおとぎ話を教えるの。ね、とってもメルヘンな世界でしょう。
「夢物語だろ。」
 うん。そうだよ、私だって知ってる。けどね、難しい話ばかりじゃ頭が疲れちゃうから。だからね、もう少し、おとぎ話を聞いてほしいな。
「私ね、いっぱい知ってるの。」
 それこそチェレンの全く知らない世界を私は知っているの。
「今は、今だけは、私のおとぎ話を聞いていて。」
 いつか離れ離れになると分かっていた。それがきっと近いの。幼なじみが英雄になって、イッシュから陰謀が遠ざかって。今がきっと転換期だから。
「チェレン、私のこと忘れないで。」
 おとぎ話と一緒に私の声を覚えていて。
「バカだな。」
「なんでえ?!」
「忘れるわけがないだろ。」
 チェレンはそう言うと、笑った。笑った?
「絶対に忘れない。大切なんだ。ベルことが、何よりも。」
 チェレンらしくない、言葉を探り探りするかのような話し方。その分、一生懸命になってくれていると分かった。私は、こんな不器用さも好きだなあ。
「ベル、聞いてる?」
「たぶん。」
「なんだそれ。」
 呆れた声に、私は言葉を探す。この気持ちはどうやったらチェレンに伝わるのだろう。
「あのね、私ね、チェレンのことが大好きなの。何よりも。きっとチェレンのパパとママよりも。」
「ベクトルが違いすぎる、かな。」
 ベクトルって何だろう。よくわからない。けれど、チェレンが言うなら合ってるのかもしれないなあ。
「よくわからないけど、大好きなの。ね、チェレン。忘れないでいてくれる?」
「忘れないって、さっき言ったケド?」
 その言葉に嬉しくなって自然と笑っていた。
「ふふ、いいの。何度だって聞きたいなあ。心があったかくなるから。」
 まるで体の全てが柔らかい水風船の肌になったみたい。嬉しくって、ふにゃふにゃになっちゃうの。
「これぐらいで?」
「大きなことだよお!あ、じゃあおとぎ話はもういらないのかな。」
「いや、教えて。気が変わったよ。」
「そうなの?」
「うん。」
 だから話してって、チェレンが言った。不思議だな。いつもチェレンが私に教えてくれるのに。
「交代だねえ。」
「たまにはそれでもいいでしょ。」
 そう言ったチェレンの、ほんの少し赤いほっぺたが嬉しかった。
(もう怖くない。)
 道が戻れないほどに分かれたって、チェレンと分かれることはないんだから。そう、確信出来たのだから。

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