N+アイリス/それは同じであった筈なのに。/ゲーム寄り/捏造
!いつも以上に捏造しかないです!



 これはイッシュリーグ現チャンピオンである、少女アイリスがまだ幼かった頃の話である。

 人里離れた山奥にその竜の里はあった。人々は自然豊かなそこでドラゴンポケモン達と慎ましく暮らしていた。その竜の里にある日、産まれた女の子がいた。竜の里の長はその子を×××と名付けた。両親はその子に優しい子に育つようにと願いながら、里の住民たちと総出でその子を育てていった。小さな里であるので、それは当たり前のことだった。やがてその子は言葉を覚えると不思議なことを言い出した。曰く、ドラゴンポケモン達は何でも知っているねと。
 違和感を思った住民たちは長に意見を求めた。長も思うところがあったのだろう。まだ幼いその子に試練を与えた。とあるドラゴンポケモン達の住処である滝の裏の洞窟が何やら騒がしいようなので様子を見て意見を述べるように、と。その子はそれは大変だと言い、滝へと一人で向かった。住民たちは準備をと焦ったが、長は止めた。長が指差した先には女の子を追いかけて駆けて行く数体のドラゴンポケモン達が見て取れた。その先頭はあの子を慕っていた幼いキバゴであった。
 女の子は道中でドラゴンポケモンと会いながら、行ったことの無い目的地である滝に辿り着いた。その頃にはその子の周りには何体ものドラゴンポケモンが集まっていた。そして滝裏の洞窟を住処とするドラゴンポケモンを探しだす。そう、彼女はそのドラゴンポケモンを知っているのだ。
 やがて女の子は一体のモノズに近寄る。モノズはその子に恭しく頭を下げ、そして目を合わせるように顔を上げた。女の子はそのモノズに向かって頷き、手を前に突き出した。
「みんながたすけたいひとにあいたいの。」
 私は悪いことはしないと、敵意はないと表したのだろう。けれどモノズは必要ないと頭を横に振った。そして女の子の周りに居るドラゴンポケモン達と数回会話を交わし、女の子を滝裏の洞窟へと導いた。
 洞窟の前でドラゴンポケモン達は立ち止まり、女の子とモノズだけが洞窟へと入る。しとしとと濡れる洞窟は夏であっても寒いだろうが、女の子は気にした素振りをしなかった。やがて女の子は洞窟の問題がある地点へと辿り着き、それを見た。
 黄緑色のふわふわとした髪、質素ながらも上等な服。輝くようなそれらとは正反対の、濁った虚ろな目。年齢が15歳ほどの少年だろうか。けれど女の子は年齢も性別も気にしない。何故ならその足を纏うスボンが真っ赤に染まり、傷口が膿んでいるのが見えたからだ。女の子はすぐにそれが毒によるものだと分かった。しかも技として使うものよりもっと危険な、草ポケモン達が緊急時に命を守る為に使用するものだと。女の子は急いで駆け寄り、虚ろな目をして動けない少年の傷口をよく見えるようにした。そして急いで洞窟から出て、集まっていたドラゴンポケモン達に助けを求めた。
 ポケモン達は年長のオノノクスの指示の元に一斉に動きだし、水ポケモンと草ポケモンを呼び出す。彼らを引き連れて女の子は少年の元へと戻り、水ポケモンのみずでっぽうで傷口をよく洗い、毒タイプも持つ草ポケモンのすいとるで少年の体の毒をある程度取り出す。そして最後にダメ元でアロマセラピーを使えば、少年の顔色がいくらかマシになった。女の子はポケモンたちに何度もありがとうとお礼を言い、ポケモン達は笑ってその場から下がった。そして女の子は少年から程よく離れた場所にドラゴンポケモン達の力を借りて焚き火を作り、少年のそばに座ってその手を握った。何度もさすっているうちに、少年の目が女の子を向いた。焦点が合ってきたのだろう。少年は虚ろな声を出す。
「きみはだれ。」
「×××だよ、おにいちゃん。だいじょうぶ?まだいたい?くるしい?」
「それは、」
「だってオノノクスがじかんがかかるっておしえてくれたもん。」
「オノノクス?」
 少年が視線を動かせば、自然と離れた位置に座るポケモン達を認識できた。少年は目を見開き、そして手を上げて何かをしようとするも体がまともに動かないようだった。女の子は言う。
「×××はかえらなくちゃ。おにいちゃんはここでげんきになるまでねててね。×××はもうここにはこれないから、みんなにおにいちゃんのこと、おしえてもらうね。×××はほんとはおそとにでちゃいけないの。」
「どうして、」
「“みんな”がでちゃだめっていうの。あのね、×××はちっちゃいからって。」
「そう、」
「あのね、おにいちゃん、またあおうね。げんきになったらおうちにきて。そしたらね、あえるの。」
 女の子の言葉に、少年は悲しい顔をする。
「帰らないと。」
「そうなの?」
「迎えが来るのを待つんだ。」
「でももうここにはこさせないってモノズはいってるよ。」
「……きみは。」
 女の子は笑う。
「だいじょうぶだよ、ここからでてもりをすすむの。モノズがあんないしてくれるって。おにいちゃんおうちにかえれるよ。」
 そう言うと女の子は少年のそばにオボンのみを置いた。それは洞窟から助けを求めて出た際に採ってきたものだった。
「これたべてね。また“みんな”がもってきてくれるって。おなかいっぱいたべてげんきになってね。」
 女の子はそう言うと立ち上がる。しかしその寸前に少年が焦ったように口を開いた。
「きみの名は、」
 女の子は不思議そうに繰り返した。
「×××だよ、おにいちゃん。」

 女の子がドラゴンポケモン達と共に里へと帰れば、住民たちが涙ぐんで彼女を迎えた。その子は長に少年のことを言い、長は難しい顔をしだした周囲を止めてから女の子に告げる。
「×××、お前に新たな名を授けよう。」
「なまえ?」
  長は語る。
「お前には古い血が色濃く出たようだ。血が薄まるにつれて途絶えた力。竜と支え合い、共に生きる為に必要不可欠だったものがお前にはあるようだ。だからそれに相応しい名を授けよう。」
 女の子は不思議そうに頭を傾ける。まだ幼い彼女には難しい話だからだ。しかし長の背後に控えていたカイリューが目を開き、女の子と視線を交えれば、女の子はパッと顔を明るくした。それは内容が分かったという表情で、長はその様子を確認するといいかいと女の子に告げる。
「アイリス。×××、お前は今日からアイリスだ。」
「あいりす?」
「古い言葉だ。お前のそれを表すものだ。」
「それ?」
 長は女の子、×××改めアイリスへと向けていた顔を優しく歪ませた。
「アイリス、竜の心を知るという意味だ。」
「りゅうのこころをしる。」
「昔は竜の里の誰もが持っていた。今はもうお前以外には居ないだろう。貴重なものだが、出し惜しみするものではなく、磨くものだ。」
「みがくもの。」
「そうだ。お前は優しい子だ。苦しむ時もあるだろう。だが、お前は向き合わねばならない運命の下に産まれたのだ。」
「うんめい。」
「己を磨きなさい。けれど今は若すぎる。だからお前は普段と同じようにしていればいい。」
「いつもといっしょ?」
「そうだ。変わる日がくるその日まで。」
「うーん、いつもといっしょなら、あいりすできるよ。」
 アイリスは笑顔になった。


 少年は目を閉じて先ほどの少女を思う。そして目を開き、手を動かそうとして断念した。少年は思う。
(×××は僕と同じなのだろうか。)
 しかしと少年は否定する。
(同じなんて居るはずがない。トモダチを傷つけるのはいつだって人間なのだから。)
 それが綻びだらけだと、その少年は気がつかない。信じきったそれを溶かすには、アイリスとの会話が少なすぎたのだ。
 心も体も深く傷ついたポケモンに負わせられた怪我と毒、教団員の手で運ばれたのは滅多に人と関わらないポケモン達が住む洞窟。それらに彼は何の不信も抱かない。
 少年は遠くない未来に王となる。青年となった少年は王となり、英雄の名をその手にする。その先で、初めて彼は自らの意思で真実と理想を求めるのだ。だからまだ、少年は疑問を持たない。全てが父親だと名乗る男の手完結された世界。そこに一歩だけ紛れ込んだアイリスなど、弾かれるだけなのだ。
 そうして彼は静かに目を閉じて、完結された世界に戻る。瞼の裏、トモダチを助け出す夢を夢想するのだった。

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