ダイディア/微睡む前にあなたのことを思い出します
ディアンシー視点。ディアンシーが女の子設定で一人称はわたくし。ダイゴさんに出会って世界を知った話。



 人曰く、彼の人は唯一無二の鉱石王であると。
 そのことにわたくしは首を傾げることしか出来ませんでした。鉱石とはクリスタルやダイヤモンドのようなものを指す筈。それならばわたくしも鉱石王ではないのかと。しかし私を外へ連れ出したあの子は言うのです。王とはチャンピオンも指すのだ、と。わたくしはそうなのかと思いましたが、チャンピオンなるものがさっぱり分かりませんでした。
 そして人の言う彼の人に会ったのです。そう、あなたなのです。ダイゴ様、あなたに会った時に何がチャンピオンであるかを知りました。あなたは私が見たどの人間よりも王の風格がありました。正確にはあの子がチャンピオンであるとあなたは言いますが、あの子は決して王ではありません。あの子は何かを統べる王ではなく、その意が無くとも全てを傅(かしず)かせることのできる無垢で孤高な絶対たる神なのです。あの子とあなたを見て、王と神は違うものだと、わたくしは知ったのです。

 わたくしがあの子からあなたの手に渡ってもう幾月も過ぎました。あの子が私の王国と決めた期限は二年。もうその四分の一が過ぎようとしています。時間の流れは今までに経験したことがないほどに早く、今までのいつよりも充実を感じています。わたくしは人の生が短く、その短い間に多くを体験するのだとあなたから学びました。あなたはわたくしの知らない、王国の外の世界をご存知でした。その知識量はあの子より多く、この地で知らないことが無いのではと思うほどでした。それはきっとそれだけわたくしが無知であったという印なのですが、わたくしは楽しかったのです。否、今だって楽しいのです。あなたから教えてもらえる全てが新鮮で、感情に満ちていて、わたくしは楽しいのです。

 寝ているあなたの頬を撫でれば目を開けて、眠れないのかと語りかけてくれるその声が優しくて。おいでとベッドの中に招く手が優しくて。抱きしめてくださる体温が温かくて。わたくしは楽しいのです。
「違うよ、ディアンシー。」
 それは嬉しいのだ、とあなたは言いました。わたくしは瞬き、そうかと納得します。確かにこれは歓喜でした。明るく、前向きな歓喜でした。あなたはまたわたくしに教えてくださったのです。わたくしは嬉しくて、嬉しくて、その胸に額をすり付けました。するとあなたは小さく笑って背を撫でてくださいます。
「ゆっくりとおやすみ、いい夢を。」
 わたくしはその言葉に従うように目を閉ざし、もう四分の一を消費してしたった期間に思いを馳せたのでした。

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