ダイゴ×ディアンシー/今も昔もただ一人の女王であったと/プロポーズ/ディアンシーは女の子設定


 静かな洞窟。きみが行きたいと言うのなら、僕はどこへだって行けるのだ。
 ヒマワキシティの近く、廃れた集落のその先の、名もなき洞窟の前。ポケモンの気配の無いそこに、僕はきみと立っていた。ここまで導いたきみは僕の袖を軽く引っ張り、洞窟の先を見てから僕を見上げた。きみの仰せのままに、なんて言えば恥ずかしそうに手を叩かれた。
 半歩先を行くきみに付いて歩く。洞窟は人の気配どころかポケモンの気配すらなく、はっきり言えば異常だとしか思えなかった。どんな場所にもポケモンは生きている。それが常識なのだから。
 洞窟に入ってそう経ってない頃、きみが立ち止まる。そこは少し広がった行き止まりで、きみはそっと壁を撫でた。壁の土が少し剥がれて、透明な何かがあった。きみの隣に立って壁の土を手で払えば、そこには平らで透明なクリスタルがあった。向こうに空間が広がっているらしく、真っ暗なそれはまるで人工の硝子窓のようにも見えた。その先を見つめるような、遠くを見ているような目をするきみの、哀しい雰囲気に僕は声をかけるのを戸惑う。
 きみは水晶で閉ざされたこの先を知っているのだろうか。
「ディアンシー、」
 呼べばきみは顔を上げてくれた。薄暗い中、その目が少し潤んでいるように見えた。そっときみの頬を撫でればしっとりと指が濡れた。僕は持ち歩いている小さなランタンに火を灯し、静かに水晶の前へと置いた。薄暗い洞窟には小さな灯りでも大きな効果があった。朧げだったきみの顔がかなり明確になって、僕はその表情を確認する。少し寂しそうな顔に、僕は微笑みを返す。そして手を触り、大丈夫だと告げた。

 かつて聞いたことがある。ディアンシーはメレシーの突然変異であり、メレシーには無いダイヤモンドを創るという性質故に、彼女はメレシーの王国の王なのだと。

 手の先からきみの体温を感じる。低めの温度は岩タイプを含むからだろう。
(水晶の先にはもしかしたら彼女の王国があったのかもしれない。)
 ならば僕らはここで誓うのが一番なのだろう。
 きみの名を呼んで、きみと向かい合って、僕は告げる。やめるときもすこやかなるときも……。
「この命がある限り、真心を尽くすことを誓うよ。」
 目を見開くきみに、僕は微笑む。きみはこの祝言を知らないだろう。でもきみが各地で白い祝いのドレスに目を煌めかせていることを僕は知っているのだ。
「結婚しよう。」
 女王さま、どうか僕の願いを受け入れてください。なんて。きみは頬を染めて、困った顔をして、それからそっと僕の手を両手で包むように触り、嬉しそうに頷いた。見つめあったきみの目が明確に愛情を示しているように思えたその瞬間、水晶の向こう、居ないはずのメレシー達が祝福してくれているような、そんな気がした。

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