また、と言った。それからもう何日経ったのか。

ー「それではまた」

目を閉じるとあの日の彼の微笑みが瞼の裏に浮かび上がる。焼き付けられたそれは次に彼に会うまで上書きされることのない彼の記憶。やわらかに微笑んだ彼はとても優しく、すり抜ける初夏の風のようだった。しっかりと感じるのに、一瞬のそれ。
我ながら的確な表現のような気がした。彼はスポーツマンでしっかり地に足をつけていて、それなのに私の指をすり抜ける。

(会いたい)

あれから何日経ったのか。数えることはしていなかった。正確には、もう数えていなかった。三日経ったところで私は数えるのをやめた。正確な日数は私を精神を蝕んだからだ。彼とはいつも頻繁に会うわけではない。それなのに今回、やけにこだわるのは彼と連絡が取れないからだ。

ー「しばらく大会に集中します」

彼の大会は明日だった気がする。カレンダーを見れば、明日の欄にしっかりと刻まれた赤い文字。彼の大会を示す文字。中継を見ようと思った。そして1番におめでとうを伝えたい。彼は絶対に優勝するのだと思う。彼は、職種が違う私から見てもプロの中のプロだから。

(明後日、会う約束がしたい)

明後日はきっとゆっくり体を休める筈だから、その時間を共に過ごしたかった。そして優しい料理を作って、美味しいと食べてほしかった。私にとって彼への料理は愛情表現なのだ。それを美味しいと食べてくれるのは、それはそれは幸福なことで。

(ザクロ…)

ああ、明後日食べてもらうならばメニューを考えよう。会いたい気持ちが大きくなりすぎておかしくなってしまいそうだった。





優しい彼に優しいごはんを
(だいすき)

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