チリオモ/キュレーター/オモダカに恋をしたチリのはなし/恋(広義)
※これは二次創作です。


 あなたと出会わない世界はいらなかった。

 夢を見る。オモダカと出会う前の、学校に通う自分を。チリはごく普通の、ポケモンとバトルが好きな女子生徒だった。荒れ気味な学校で、そつなく生きるだけの力があった。
 そんなつまらない世界に、色を足したのが、オモダカだった。

 青、黄色、

 宇宙。

「初めまして、チリさん」
 若きトップチャンピオン。パルデアリーグに人を集めていることは、噂程度に知っていた。その美しき乙女に、チリはこころが震えた。
 そして手が差し出される。そこには、手袋。
「ポケモンリーグに来ると良いですよ」
「……何でや」
「つまらないでしょう?」
 高らかに、パルデアの愛おしい子を見ていた。
「あなたもまた、パルデアの星ですから」
「星?」
「ええ、他者に輝きを魅せるもの。私はパルデアに星空を見出したのです」
 それって。違う。
「宇宙やろ」
「宇宙? ああ、星空は宇宙ですからね」
 なあ。
「はい」
「なまえ、呼んでみ」
「……」
 オモダカは豊かに笑う。
「はい、チリ」
 彼女は確かにそうして、チリのあるべき宇宙になった。

「おはようございます」
「あー、おはようさん」
「早出ですか?」
「総大将もなん?」
「そうです。困ったことに、ミスが見つかりまして」
「は? なに、どこ?」
「こちらの数字ですが、値がズレてます。ここから全て作り直しです」
「うわあ、それ総大将がやるん?」
「サインする前に気がついて良かったです。昨日の深夜に届いた書類だったので、早出して、自分でやろうかと」
「チリちゃんでもできるやろ。やるで」
「しかし、チリも仕事が」
「総大将、あと二時間で他地方との親善試合の予定、覚えてます?」
「……ありますね」
「睡眠はとったんやろけど、通常の業務もあるんやし、無茶はやめとき。パルデアのトップチャンピオン様なんやから」 
「そうします。もう無理ができる年齢でもありませんからね」
「そんな歳でもないやろ」
「全盛期をいつに設定するかで変わりますね」
「ハイハイ、ほら、渡しい」
「はい、頼みます」
「まかしとき」
 ああ、チリ。オモダカが笑う。
「今日の試合、録画するそうですよ」
「ふうん」
「データ、もらっておきますね」
「そらどうも」
 オモダカはさらりと自分のデスクに向かった。チリはオモダカの親善試合を見る資格はある。ただ、今日は通常の業務もあるから、という社会人として真っ当な理由だ。
 彼女の本気の試合運びは、圧倒的である。ただ、オモダカ自身がそれを武器として、振るうことが少ない。彼女が貫くのは、パルデアのプロデュースだ。彼女のカリスマ性はそこにある。あらべきは人望では無いし、強さでもない。圧倒的な、取引の才。
 文化的に強いトレーナーが少ない、ここパルデアで、強いパルデアを作り上げるための、才能。
 チリは、少しだけ笑った。
 万人に好かれる必要はない、知られる必要もないなんて、思ってしまう。それこそ驕りで、騙りで、致命的。なのに、オモダカはそう思わせる。彼女にとっての何らかの特別だと、誰もが思う。そう思わせる。圧倒的な自己プロデュース。魅せ方を知っている。
 引っかかっている。チリ自身、その自覚はある。でも、それでいい。
「チリ」
 そうやって、呼んで。いつでも振り返るから。
「戻ってきたん? 何かあったんか」
「いえ、宝食堂から改装予算案、きてますか?」
「は? 何の話?」
「……なるほど、分かりました。メールします」
「急ぎなん?」
「まだです。余裕がないわけではありませんからね」
 全くと、オモダカはまた、デスク意識を戻していった。
 こういうところも、また、スーパー総大将様なのだろう。

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