チリオモ/プレゼント/チリちゃんはペアリングが欲しい話


 夕方のパルデアリーグ。帰り支度をする職員に紛れて、オモダカの元にチリがやって来る。本日の締めだ。さっさと書類を確認してサインをすると、チリが言った。
「総大将は欲しい物とかあるん?」
「強いパルデアでしょうか」
「物って言うとるやろ」
 物。オモダカはぱちんと瞬きをする。強いパルデアは概念だ。物ではない。
「そうですね、特にはありません。欲しい物は自分で調達しますので」
 はきはきと言い切ったオモダカに、チリはううむと唸る。
「白状するんやけど、そろそろペアリングとか欲しいなあって」
「手配しましょうか?」
「いらん。それどんな高額を押し付けられるん? もっと気軽に、毎日付けてられるものがいいやろ」
「そうですか……? ええと、手袋の邪魔にならないものなら何でも」
「総大将は、そういう物欲、あんま無いもんなあ」
「そうかもしれません」
 オモダカは強いパルデアが欲しい。それだけのために、自分をプロデュースし、他人の人生を振り回してきた。そのことに後悔はない。だが、いわゆる普通の人間たちからすると、少し寂しい人なのかもしれない。自分の在り方には自信がある。でも、他人から見たらそうでもない。
 目の前のチリにはどう見えているのだろう。気にするようなことではない。ただ、恋愛の仲にある人を無碍にしたいわけではないのだ。そこまで人間感情を無為にしてはいない。
「なあ総大将。難しく考えんといて」
 ただ、チリは証が欲しいのだという。
「チリちゃんが総大将のもの、ってのは手袋で分かるやん。だいたいは」
「そうですか?」
「じゃあ、総大将は?」
 オモダカがチリのものだという、他人から見える確証は?
 そっと自身の左手を撫でる。手袋越しのここに凹凸はない。
「不安に、させましたね」
 やや気落ちする。チリは、そこまで深刻やないでと、笑っていた。
「総大将のためっちゅうより、チリちゃんのため。やから、ペアリングはチリちゃんの好きにさせてもらうで」
「はい」
「本当は、ピアスとかもええと思うんやけど」
 チリがさらりとオモダカの耳を撫でる。オモダカは目を丸くした。
「耳飾り、ですか?」
「ピアスを贈る意味は知っとる?」
「いいえ。でも、私はピアスホールを開けていないので」
「せやな」
 いつか開けたら教えてな。そんな控えめな言葉に、オモダカも自身の耳を触る。
「開ける時は、チリに頼みます」
「へ?」
 体に傷をつけるなら、それはいっとう大切な人でなければ。
 オモダカの言い分に、チリはそれはええなと笑った。

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