手を伸ばす、掴める。あなたの服を掴める。それがとても幸せなことを、私はよく分からなかった。しかしあなたはよく分かっているようだった。
あなたは私に長く片思いをしていたそうだ。だから、手を伸ばして掴めない関係の苦しさをあなたはよく分かっているのだろう。わたしが手を伸ばして服の裾を掴むたび、愛おしそうに私を見る。あなたは私の手を掴むたび、とても満たされた顔をする。私は、それが分からなかった。確かに、幸せなことだと思う。けれど、あなたのように深く深く幸せを感じることはなかった。
この差はきっといつまでも埋まらないのだろう。それを私は寂しく思う。私もあなたのように、否、あなたと同じ幸せを感じたかった。

「ザクロ」
「はい」
「寂しそうですね」
「そういうわけでは」

何と無く、寂しい気持ちを悟られたくなくて否定する。するとあなたはそっと手を伸ばし、私の手を取った。その動作はとても優しかった。

「私は貴方に寂しい思いをなるべくならして欲しくありません。」
「…」
「出来ることなら、私が貴方の寂しさを埋めて差し上げたい。」
「ズミさん、」
「どうですか?」

ニコリと笑うあなたに、私はいつの間にか入っていた体の力を抜く。ああ、あなたには敵わない。そんな風に思った。

「それなら、」
「はい」
「もう少しだけ、手を繋いでいたいです」

私のそんな願いに、あなたは構いませんよと笑った。





思いに差をつけた青年
(触れていればいつかあなたと差を縮められる気がして)

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