チリオモ/閃光、及び、大団円
強烈な光であれ。
「チリ、サングラスいります?」
「いりません。総大将こそ、ちゃんとしとき」
そこまで気にするものではありませんと、オモダカはテラリウムドームで笑った。
チリは特別講師として、オモダカは探索として。それぞれの理由でテラリウムドームに来ている。
「チリはじめんタイプの講義ですか?」
「せやせや。一年生向けのなあ」
なにせ、それなりに地味なタイプである。縁の下の力持ちではあるけれど、メインで扱うトレーナーはそう多くない。
一年生たちに興味を持ってもらえればと、チリは自分のモンスターボールを撫でた。
「ここではダブルバトルが主流です。じめんタイプの採用率も高いはずでは?」
「必然的に、な。チリちゃんがそれで満足すると思ったん?」
「ふふ、そうですね。きっと難しいでしょう」
ではまた後で。オモダカはゴーゴートを出すと背中に乗って駆けていく。あっという間に離れていく背中を眺めながら、チリはテラリウムドームを見渡した。
理想的な人工物。巨大建築と、テラリウムコア。そこに住まう、特別なポケモンたち。
「どこまで総大将の興味を惹きつけてくれるんやろなあ」
チリの仕事は、オモダカの仕事をスムーズに進めることでもある。そのためには、なるべくオモダカの興味の範囲を把握しておきたい。
まあ、そんな風に手綱を握れるおひとである訳がないのだが。
「あーあ。講義の準備しよか」
キャラじゃないんやけど。そう言いつつも、仕事だからとチリは歩き始めた。
午後になると、チリの講義は終わった。遅めの昼休憩にしようとリーグ部に行くと、生徒たちはまばらだった。学食へ向かったのだろう。
「チリ」
「うわあ?! なに?! どうしたん総大将?!」
「そんなに驚かなくても……サンドイッチを作ったのですが、食べますか?」
「なにそれ食べられるシロモノなん?」
「レシピ本通りに作ったので大丈夫だと思います」
苦味と酸味が強いのでクセがありますが、とオモダカはサンドイッチをチリに分けてくれた。
どうもと、受け取ったチリはサンドイッチを食べる。ピーマンの苦味と酸味が強めのマヨネーズが特徴だろう。玉ねぎやハムも入っているのでそうおかしな味ではなかった。
「どうにも、ここの学食は口に合わなくて……」
「あー、せやろな」
「はい。サンドイッチは久しぶりに作ったのですが、いかがですか」
「まずくはないで」
「ありがとうございます」
パクパクと食べて、パルデアに帰るための支度をする。オモダカも一度帰るらしい。
「明日もこちらに探索に来れるように手配したんです」
「ホンマにそういうの好きな人やな」
「たまたまスケジュールに空きがあったので」
「体をちゃんと休めなあかんで。そのスケジュールの空きは詰め込んであった仕事が片付いただけやろ」
「う、はい。チリにはお見通しですね」
「はいはい。帰ったらチリちゃんが書類をプレゼントしたるからな」
「報告書ですね。よろしくお願いします」
では帰りましょう。オモダカがまた、笑う。チリは仕方の無い人と彼女の手を握ったのだった。