チリオモ/きみおそるるなかれ/副題:ルネサンス/前半はシロナさんとオモダカさんが喋ってます


 古きもの、新しきもの、未知のもの、既知のもの。全てがこのパルデアを構成する星々である。健やかであればいい。そうでなくとも、許容する。宇宙(そら)はいま、この腹の中に。

「オモダカって宇宙みたいよね」
 シロナが言う。パルデアに立ち寄った彼女と会っていたオモダカはきょとんとした。
「あなたが、宇宙と言うのは、重みが違いますね」
「まあね。その類いの研究はしてるもの」
 アーモンドケーキを食べながら、シロナは楽しそうに言う。
 シンオウ神話は世界創造の神話である。オモダカにはあまり馴染みのない価値観と世界観で語られるそれを、否定したいとは思わない。ただ、興味深いとは思う。
「どうして昔のシンオウの方は世界を創造した存在を考えたのでしょう」
「きっとそれだけ知らないことが多かったのよ」
「知らないこと?」
「知らないことが多いと、人は知ろうとする。シンオウは、広大だわ」
 パルデアほどじゃないかもしれないけれど。シロナの言葉はずっと楽しそうだ。オモダカはぱちぱちと瞬きをする。
「それで、どうして私が宇宙だと?」
「ああそれ。宇宙ってね、ひとつなの」
「はい?」
「あくまで神話の話だけれど、宇宙は一つ、星は数多に」
「はい」
「でね、オモダカを見てると、そう思うのよ」
 シロナはさくりと、ケーキにフォークを刺した。
「オモダカは、一つ、なの」
 きっとね。笑うシロナは優しい。オモダカは苦笑した。
「私はそんな大きなものではありませんよ」
「あらそう?」
「私からすると、宇宙は、パルデアの大地でしょうか。星々のようなトレーナーが各地で輝いていますから」
「素敵ね」
 ねえ、オモダカ。シロナは言う。
「貴女がどう考えようとも、貴女は──」
 その先が聞き取れなかった。突風が吹いた。それだけだった。

 アカデミーに入る。エントランスでチリが迎えた。
「約束はどうやった?」
「ええ、今度アカデミーで講義してくださるそうです」
「そりゃ良かったやん。ならもう帰りやろ」
「はい」
「チリちゃん腹減ったわあ。デリ買ってええ?」
「お好きに」
「あと総大将の秘蔵のワインが飲みたい」
「別に秘蔵ではないですよ? 開けましょうか。赤で?」
「赤!」
 チリはオモダカの腕に腕を絡める。オモダカが驚くと、チリはくつくつと笑った。
「たまには堂々とイチャつかんとな」
「人目を気にするのはいつもチリなのに」
「ええの」
 そこで、あれとオモダカは首を傾げた。違和感。うんと考えて、タクシーに乗る直前で、言った。
「もしかして嫉妬しました?」
 チリはキョトンとしてから、にいっと笑った。
「そうかもなあ?」
 これは誤魔化している。オモダカは頭が痛いと苦笑した。
「今晩はチリに付き合います」
「そうさせてもらうで」
「明日は午後からなので」
「あ、休みにしといたわ」
「えっ」
「夜更かしなんて慣れとらんやろ?」
「それは、そうですけれど」
「明日起きれる自信あるん?」
「無いです」
「ん。よろしい。ってな」
 一緒に風呂も入ろうなと笑うチリに、もうとオモダカは息を吐いたのだった。

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