チリオモ/みずいろ/ほぼオモダカさんとミナキさんの会話です。ミナキさんがパルデア語に慣れてません。


 エメラルドグリーンかと思った。こちらを見た目は確かなブルーで。オモダカはポカンとした。不思議な虹彩だとオモダカはよく言われる。だが、アカデミーのエントランスの二階部分にいる彼は、二つの色を同居させた、不思議な目をしていた。

「初めまして、トップチャンピオン」
 彼はオモダカの前に立って、しゃんと挨拶した。オモダカもまた、その礼儀に答える。
「初めまして、ミナキさんですね。私はオモダカです」
「オモダカさんとお呼びしても?」
「是非。あなたはどうしてこちらに?」
「この地方の豊かな自然に圧倒されたんです。それで、地図を探していただけですよ」
 地図。オモダカはすぐに分かる。彼が求めているのは単なる地図では無い。
「必要ならば手伝いましょう」
「いいえ、きっと無いとわかったので、フィールドワークに出かけようかと」
「おや、無いのですか?」
「ええ。ええっと」
 彼はパルデア語に慣れていない。しばらく迷ったのちに、言った。
「綺麗な水辺を探しています」
 そんなもの、ありふれている。

 オモダカは無性に目の前の紳士が心配になった。パルデアに水辺などありふれている。ありふれているほどに、多いのだ。
 ミナキは苦笑し、フィールドワークなら慣れてますと言った。スーツは色と柄こそ奇抜だが、形だけ取ればどう見ても紳士である。オモダカは少し頭が痛かった。この人をこのままフィールドワークに出していいものか。
 何より、オモダカがミナキをどうして知っていたか、は単なる挨拶として電報を打ってきたからに違いない。リーグの執務室で秘書から聞いたのだ。カントーからの旅行者で、研究のためにパルデアに行きますと。私に断りを入れなくてもいいのにという思いと、丁寧な人だなという印象だけが残った。
 ミルクティーみたいな髪と、エメラルドブルーの瞳。そして、どこかきらきらと輝くような無邪気さが、少年のようだ。どこからどう見ても、マジシャンじみた紳士だというのに。
「案内を付けましょうか」
 だからこの提案は善意だった。紳士はにこりと笑う。
「いえ、多少無茶するので、悪いです」
 無茶をするな。オモダカは遠い目をした。ああ、これは暴走列車と同じだ。そして、オモダカ(わたくし)と似ている。目的に真っ直ぐに進んでいるのだ。
 そこへ、申し申しと声をかけられる。オモダカが振り返ると、着物のご令嬢がいた。彼女はミナキに何か言うと、流暢なパルデア語で言った。
「オモダカ様、初めまして。この人はわたしが見張りますのでご心配なく。無茶をするのは昔からなので」
「ご友人ですか?」
「ええ、わたしはエリカと申します」
「もしかして、ジムリーダーの」
「ご存知なら話が早いです。腕には少し自信があるので彼の護衛はわたしが行います」
「エリカっ」
「少し黙っていてくださる? ええと、後日またご挨拶に向かいます。では今日はここで失礼します」
「ちょっ、エリカ待ってくれ! オモダカさん、また今度ちゃんと挨拶に行きます!」
「え、ええ」
 ぽかんとオモダカはエリカとミナキを見送った。どうやら気心が知れた仲らしい。恋仲ではなさそうだ。幼馴染というやつかもしれない。アカデミーの同級生とも似ている。オモダカはアカデミーのエントランスにいるだけあって、感慨深くなった。そして、カントーのジムリーダーのエリカとなれば、と確信する。
「強いお方でしょうね」
 何せ、パルデアとは根本的に違う地方だ。ジムリーダーはこちらでは通過儀礼じみているが、カントーは違う。真の意味での腕試しなのだ。
「総大将ここにおったん?」
「ああ、チリ。どうかしましたか?」
 そろそろリーグに戻らんと、そう言ったチリはおやと意外そうな顔をした。
「何か楽しそうやね」
「ええ、とても」
「いいことあったん?」
「はい。カントーにもう一度出張してもいいのではないか、と」
 にこにこと笑って言えば、チリはスケジュールが空いたら行ってみよかと軽く返した。意外だ。驚くと、チリは呆れた顔をする。
「そんなに楽しそうなんに、取り上げることせえへんよ」
 仕方のないトップチャンピオン様だ事。チリの言い分に、オモダカはくすりと笑った。
「チリは優しいですね」
「そーやろ。チリちゃんは優しいんやでー」
 だから、はよ帰ろか。そう言ったチリはほんとうに優しそうだった。

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