まだ幼いチゴラスとアマルスが遊んでいる。アマルスの周りをチゴラスがぐるぐると周り駆け回り、何か声を発して喋っていた。二匹の鳴き声が微笑ましくて、私は穏やかな気分になった。しかしそろそろ夕方である。浜辺で二匹を遊ばせていたが、真っ暗になる前に自宅に戻なければならない。私は二匹を呼ぼうとした。しかしそれは声をかけられたことで阻まれる。
「ザクロ」
振り返るとそこには私服のズミさんが居た。ここショウヨウで会うのは久しぶりで少し驚く。
「ズミさん、どうかしたのですか?」
「たまにはポケモン達を外で遊ばせようと思いまして。貴方もですか」
「はい。 」
私は駆け寄ってきたアマルスとチゴラスを撫でる。この幼い二匹はズミさんと初めて会う二匹だった。
「この二匹はまだ化石から蘇ったばかりのこどもなんです」
「道理で見覚えのないチゴラスとアマルスだと思いました」
ズミさんは二匹に挨拶をする。二匹は少し不安そうにしていて、慣れるにはまだ遠そうだと思う。
「ズミさんのポケモンはもうボールの中ですか」
「はい。もう夕方ですし、ホテルに戻ろうかと」
「そうですか。」
私はアマルスとチゴラスをボールに戻す。そして別れようとすると、別のアマルスとチゴラスの入ったボールが揺れ、ぽんと二匹が飛び出した。
「えっ」
「おや」
二匹は飛び出すと、ズミさんに突撃する。ズミさんは二匹をしっかりと受け止めた。
「こちらはお久しぶりですね、チゴラスとアマルス」
アマルスは嬉しそうにズミさんに擦り寄る。チゴラスは嬉しさのあまり飛び跳ねていた。
この二匹は化石から蘇ってすぐに、復元に立ち会っていたズミさんを目にしているのだ。その時はたまたま私が立ち会うことを誘ったのだが、まさかこんなにズミさんに懐くことになるとは思わなかった。ちなみに私にもちゃんと懐いてくれてはいる。
「チゴラス、アマルス。ズミさんはホテルにお戻りになるんですよ」
私の言葉に二匹は寂しそうにしゅんとする。何故か悪いことをしたように感じるが、ズミさんを無理に引き止める訳にはいかない。
「ほら、チゴラスもアマルスも…」
「ふむ。それならもう少し一緒に居ましょうか」
「えっ、いいんですか?」
「特に急用はありませんから。」
笑みを浮かべるズミさんに、申し訳なくなりながら空を見上げてみる。空は夜の群青が殆どで、夕日はほぼ沈んでいた。これからもう少しここに居るとしたら、街が近いとはいえ真っ暗になってしまう。それに秋の夜の海辺はとても寒いだろう。
「ズミさん」
「どうしました」
「私の家でも構いませんか?」
私の提案にズミさんは目を丸くする。驚くほどのことだろうか。秋の夜は寒いのだから、ズミさんを外に付き合わせてしまうのは申し訳なかったからの提案だったのだが。
「いいのですか?」
「ホテルではチゴラスがはしゃぐと迷惑になってしまうかもしれません」
「それは、そうですが…」
ズミさんは少し困った顔をする。私の家では何か問題があるのだろうか。
「片付けはしてありますよ」
「いえ、そうではなく」
「?」
「急でしたので」
「そうですか?」
ズミさんは苦笑して、それじゃあお邪魔しますと言った。
私の家に向かう道中、チゴラスとアマルスは出したままにした。距離がそんなにないことと、二匹がズミさんから離れたくなかったことと、ショウヨウの皆さんが理解してくれていることが理由である。
家に着くと扉の鍵を開けて玄関の電気を付け、ズミさんとアマルスとチゴラスを招き入れた。
「上着受け取りますよ」
「すみません、お願いします」
私はズミさんの上着を上着かけにかけると、自分の上着も同じようにする。チゴラスとアマルスは何やら二匹で喋っているようだった。内緒話のように小さく喋る二匹が微笑ましくて、私は微笑む。しかしズミさんをここで立ちぼうけにする訳にはいかないので、じゃあリビングに行きましょうと、声を掛けてリビングに向かった。
リビングの電気を付けると、チゴラスとアマルスは嬉しそうにリビングを駆け回った。私は程々にしてくださいねと二匹に言ってから、ズミさんにインスタントのコーヒーぐらいしか出せませんがいいですか、と言うとズミさんは構いませんよと言ってくれた。
私はキッチンでコーヒーをマグカップに二つ作るとリビングに運んだ。ズミさんはイスに座っていて、チゴラスとアマルスの相手をしてくれていた。
「コーヒーです。」
「ありがとうございます」
「ふたりの相手をしてくださってありがとうございます」
「たいしたことはありませんよ」
チゴラスとアマルスがズミさんに見せようとこの間お絵かきした画用紙を引っ張り出すのを見ながら、私はズミさんに本当に懐いているなと少しだけ寂しく思った。ちゃんと私にも懐いてくれていることは分かってはいるのだが、寂しいものは寂しいもので。
「どうしましたか?」
「あ、いえ」
「…ちゃんと貴方にも懐いていますよ」
私は隠していたわけではないのに少しだけドキリとしてしまう。そんな私をズミさんはクスリと笑った。
「気にすることはありません。気にしないのは無理でしょうが」
「意地悪ですね」
「私だって懐いてくれているのが嬉しいもので」
絵を見せるアマルスとチゴラスによく頑張りましたねと言って頭を撫でるズミさんに、私はよく懐いていていいなあと思いながら砂糖もミルクも入れていないコーヒーを飲む。
「やっぱり、気にすることはないと思うのですけれどね」
「そうですか?」
ズミさんの突然の言葉に、私は頭を傾ける。ズミさんは仕方なさそうに笑っていて。
「だってこの子達が描いたこの絵のモデルはザクロさんでしょう」
「え?」
私が驚くと、ズミさんは丁寧に絵の解説を始める。私は絵のモデルが何かをあまり気にしていなかったので、まさか自分が描かれているとは夢にも思っていなかった。
「それで、この茶色は貴方の肌でしょう」
「…確かに」
「愛されているじゃあないですか」
私は少し気恥ずかしくなって、席を立ち、アマルスとチゴラスをそっと抱きしめた。二匹がとても愛おしかった。
これは家族愛に似た
(良かったですね)
(…はい)